弁護士さん 相談です!
「もうかる秘訣」買った情報に不満
夫がインターネットで「必ずもうかるネットビジネスの秘訣」というデータファイルを購入した。代金二万円を振り込んでダウンロードしてみたが、代金に見合わない、いい加減な内容だった。事業者に返金を求めることは可能だろうか。
夫「詐欺に遭った気分だ」
妻「でも、返品不可と書いてあったわね」
Q 返金請求できるのか
A 勧誘方法、問題あれば
「パチスロ必勝法」「外国為替証拠金取引(FX)で稼ぐ方法」などのハウツー情報を商品として販売するものを「情報商材」という。ネット上で販売される情報を指すことが多いが、ギャンブルの攻略法などは専門誌の広告を通じて対面や電話などで提供されることもある。
情報商材に関する「E~BOOK白書」を販売する出版社トレンドライフ(東京・新宿)が集計した被害相談の件数は二〇〇七年九月以降、一千件以上にのぼる。同社によるとネット上の情報商材の市場規模は年間十億|十五億円。「その内、八割程度が専用のショッピングモールやオークションサイトを通じて販売される」(同社の山岸悟氏)という。
特定商取引法を所轄する経済産業省は「三月に国会に提出された特商法の改正案は、通信販売についても一定条件での返品を可能にする。冊子形態の情報商材ならば将来、返品対象になりうる」(消費経済政策課)という。だが、ネット上でデータをやりとりする商材取引は物販ではなく役務にあたるため「法改正後も特商法上の返品対象にはならない」(同)とする。
ネット関連トラブルを扱うECネットワーク(東京・千代田)の原田由里理事は「金額相応の内容ではなかったと利用者本人が抗議しても、事業者が返金に応じることは少ないのが現状」と指摘する。
このまま泣き寝入りするしかないのか、夫婦は専門家に相談することにした。
内容がつまらないという理由で本が返品できないように、単に「値段相応の価値がない」というだけで契約を解除するのは難しいが、事業者の勧誘方法が不当だとの主張ができる。
裁判になるのは、専門誌の広告などを介して購入した高額被害の事例が多い。代金の返還をめぐる裁判例には〇五年十一月の東京地裁の判決がある。雑誌でパチンコ攻略法販売の広告を出していた会社に対し、被害者が支払った六十七万ニ千円の返還を命じた。「(勧誘において)本来予測することができない出玉の数について断定的判断を提供した」とみなした。
判決文によると、被害者は「勝ち組100%確定」などという広告を見て会社に連絡。その際会社の担当者は「情報代金は数日あれば全額回収できる」と将来の利益が確実だという趣旨の言葉を用いた。裁判所は、こうした勧誘行為は消費者契約法が契約取り消し要件と定める「重要事項について事実と異なることを告げること」に該当すると判断した。
また、現在FXに関する情報商材の被害者の代理人として事業者を東京地裁に訴えている荒井哲朗弁護士は「FXは高リスクの投機行為だから、利益を断じたりリスク認識を誤らせたりして取引を開始させる行為は民法の不法行為にあたる」と主張する。
パチンコ、パチスロ攻略法の被害についての裁判を多く手掛ける藤森克美弁護士は「過去四年間で二十|三十件裁判を手掛けたが、パチンコなどについては七~八割のケースで支払った金額は戻る」という。
夫「買った攻略法を転売することはできますか」
弁護士「著作権の問題が生じる可能性があります」
著作権法に詳しい牧野和夫弁護士は「書籍の転売が自由なように冊子形態のものを転売するのは自由」とする。ただ「ネット上のファイルなどは、転売の課程でコピーやアップロードが必要になることが多く、無断で行うと著作権法が定める複製権や送信可能化権などを侵害する可能性が高い」と指摘する。
しかし「お金のもうけ方などのノウハウ自体は著作物というよりビジネスモデルに近い。アイデアに当たる部分を自分なりの文章にまとめ直して販売することにまで著作権法違反は問えないだろう」とみる。 「販売時に情報漏洩(ろうえい)を禁止する契約を結ぶことは可能だが、実際には誰が漏らしたか証明することは困難」と、ネット関連トラブルに詳しい久保健一郎弁護士は指摘する。また「数万円程度の商材について、暴利ともいえる漏洩(ろうえい)違約金を設定している場合は、その契約自体が無効となる可能性が高い」という。
豆知識
情報商材、安全性の見極め必要
情報商材はアフィリエイト・サービス・プロバイダー(ASP)と呼ばれる広告仲介会社のショッピングモール上で売買されることが多い。消費者は、個人のブログ(日記風の簡易ホームページ)などの広告からリンクで誘導され商材を購入する。ブログ運営者などには広告の成果報酬が入る。
国内サイトの情報商材の相場は1商品数万円程度と、一般書籍に比べ高額。一方、米国では専用サイトで数千円程度で購入可能で、射幸心をあおる商材だけでなく「ペットのしつけ方」「ゴルフ上達法」など生活に密着した内容も多数存在する。
国内では「連鎖販売取引(マルチ商法)」と連携している例もある」(経済産業省)という。「購入前に事業者に質問メールを送り、安全性を見極めるべきだ」との指摘もある。