朝日新聞 2008年8月25日付 夕刊

2014年9月29日

ネットに増殖、情報商法 匿名性悪用、申告漏れも 
もうかる・モテる・毛が生える…

 「簡単にもうける方法」「ギャンブル必勝法」などとうたってインターネット上で情報を販売する個人や法人が、国税当局に申告漏れを指摘されるケースが増えていることが分かった。大半は、ネット特有の匿名性を悪用し、多額の所得を得ながら全く申告していなかったという。
 これまでに東京国税局などに申告漏れを指摘されたのは、少なくとも15の個人や法人で、数年分で総額5億数千万円に上るとみられる。大半が仮装・隠蔽(いんぺい)を伴う悪質なケースとして、重加算税の対象となっているという。
 これらとは別に、「月収50万円を稼ぐ秘訣(ひけつ)を公開」「FX常勝バイブル」などを売っていた40代の男性が個人と法人での約1億3千万円を脱税したとして、所得税法違反などの容疑で東京地検に告発されている。 これらは「情報商材」と呼ばれ、主に電子データでやり取りされる。美容やダイエットに関する情報、小説や外国語の習得法などを販売しているケースも多い。代金の支払いには、仮名・借名の個人口座や、実体が分からない法人名義の口座が使われることが多い。信頼性を高めるため、申告漏れを指摘された個人や法人の多くは「電子決済会社」を使っていたという。
 ●お寒い内容、苦情続出
 「情報商材」の市場規模は年間100億円とも、200億円とも言われる。国税当局が指摘した納税問題に加えて深刻なのは、その商売の実態だ。大げさな広告にだまされ、高額な契約を結んでしまったなどというトラブルが急増している。
 「ゴルフクラブを格安で手に入れる方法」「1日で30万円手に入れる方法」。こうした広告をインターネット上で目にすることがある。そのノウハウを数千円から数万円で売っているのだが、購入してみると「中古オークションで買ってください」「サラ金で借りてください」--。
 インターネット上の法律問題に詳しい大宮法科大学院大学の牧野和夫教授は「重要な事実を隠していたり断定的に広告したりするなど、消費者契約法、特定商取引に関する法律などに抵触するケースがある」。詐欺的な商材も多いという。 もちろん、内容が充実し値段も妥当な人気商材はあるが、「誇大広告、値段に見合わない内容などモラルの乏しい販売者がいるのは事実」と業界最大手の幹部も認める。 関係者によると、現在流通している商材は約9千点。売れ筋のトップ3は、(1)金もうけ(2)モテる方法など男女関係(3)毛が生える・やせるなどコンプレックス対策。購入者は若者から高齢者まで幅広く、販売者は若い男性が多い。 千葉県の男性は昨年6月、インターネット上で「3カ月で元が取れるサイドビジネス」という物販の情報商材を見つけた。85万円支払うと、販売者側でホームページを作り、それを通じてゴーカートなど五つの商品の販売が始まるというものだった。年金暮らしなので蓄えを増やそうと購入したが、まったく売れない。 HPは文字ばかりが並び、人の目を引く宣伝文句もない。そのうちに連絡も取れなくなり、今年1月末、突然「サービスを停止します」と通知があった。 群馬県の40代の男性は、所得税法違反容疑で告発された業者から「月収50万円を稼ぐ秘訣を公開」という商材を約6万円で購入した。HPをたくさん作り、リンクをたくさんつなげて物品を販売するというノウハウ。売上高は年間10万円にとどまった。業者には苦情が殺到し、サービスは停止。最近、「全面的に失敗に終わった」と謝罪するメールが購入者に送られてきたという。
 ◆キーワード
 <情報商材> 金もうけ、ダイエットなどのノウハウ・情報をインターネット上で販売しており、ここ数年で急速に拡大した。数千円から数万円と通常の書籍よりも割高。「元○○が教える」「裏情報」などと購買欲をかき立てるが、値段と内容が見合わないなどの批判も多い。

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