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法律アドバイザー 森 亮二 弁護士

2014年9月23日

販売モールは「審査」をしなくても責任が

情報商材販売モールの利用規約を解説する森氏。

——「審査しているから責任が重くなる」となれば、情報商材モール側は以前のような「審査なし」という方針に戻すかもしれません。これだけ問題のある商品を専門に恒常的に販売するモールが商品や販売者を審査しない方が法的責任が軽くなるのであれば、矛盾を感じます。

 審査をしなければ、販売モールの法的責任が完全に無くなるということではありません。ただ、「審査しています」と積極的にユーザーに対して語り、ユーザーの信用を獲得しているような場合には、そのこと自体が欺く行為に近いので責任を認めることが容易になるのです。

——情報商材販売モールの売主責任を追及する他のポイントは無いでしょうか?

 そもそも実態としては、情報商材販売モールが中心的な主体となって情報商材を販売していることが多いのですから、直接それを問題にすべきでしょう。
情報商材販売モールの利用規約の中には、商材の発行者に対しての支払いを「報酬の支払い」と書いているものがあります。これは、この情報商材販売モールが販売者に対して「報酬を払う」という意識を持っているからでしょう。
情報商材売買において情報商材販売モールは単なる場所貸しではなくて、取引を主体的に管理する中核的存在であることのあらわれなんじゃないかと思います。アフィリエイターに対しては報酬でいいと思いますが、販売者にモールが報酬を支払うのはおかしな話です。
仮に情報商材販売モール自身が主張するように単なるモール+決済代行なら、「お客様から入った売上代金はいついつ、こちらの手数料を控除して販売者の指定する口座に振り込みますと」いうふうにするべきですよね。

裁判になると被害者にも過失相殺が

——情報商材に関して、実際に訴訟が起きたことがあるのですか。

 「FX常勝バイブル」事件(東京地裁平成20年10月16日判決)というものがあります。長くなりますが、説明しましょう。
「FX常勝バイブル」(以下「バイブル」)という情報商材があり、これについて「100%の勝率で毎月25%以上の利益を得ていく方法」と明らかに誇大な広告がなされていました。この誇大広告をした者と「バイブル」の販売者、「バイブル」からリンクを張ってもらって顧客を獲得していたFX取引業者の損害賠償責任が認められた事件です。
 原告は「バイブル」を2万4000円で販売者から購入した大学生で、販売者の勧めに従って、FX取引事業者に口座を開設し、約1年間のFX取引で約185万円の損害を受けました。
判決は、誇大広告をした者について、「100%の勝率」などということはあり得ないのに誤った情報を提供し、原告をして本件取引を開始させたのであるから不法行為責任ありとしました。販売者についてもこの誇大広告をHPに載せて「バイブル」を販売したことにより不法行為責任があるとしました。
販売者を通じて多くの顧客を得ていたFX取引事業者については、慎重に検討した結果、やはり不法行為責任を認めました。その一方で、安易に「100%の勝率」を信じて取引を開始した原告には「大きな過失」があるとして5割の過失相殺をしました。結局、裁判所は各被告について、92万円+弁護士費用10万円の計102万円を連帯して支払うように命じました。

——最後の過失相殺というのはどういうことでしょう。

不法行為の被害者にも落ち度がある場合には、その落ち度の割合を考慮して損害賠償の額を減額するという考え方です。

——5割も削られるのですか。酷ですね?

 もちろん、だました方が悪いのですが、裁判所では、だまされた方の落ち度も被害の一因になっていることが考慮されます。自分の落ち度で被害が拡大した分については、損害賠償が認められないのです。

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