日本弁護士連合会消費者問題対策委員会委員
土井 裕明 弁護士

2014年12月2日

日本弁護士連合会消費者問題対策委員会委員 土井 裕明 弁護士

そろそろ、アングラビジネスを支える
決済代行業者の責任を認める判決をとりたいですね。

——決済代行業者こそが出会い系詐欺や情報商材商法などアングラビジネスをのさばらせる諸悪の根源という指摘がありますが、土井先生はどう見ていますか?

 私自身が日弁連の消費者委員会の電子商取引部会の委員をやっておりまして、先日、経済産業省と消費者庁の役員の方と情報交換をしたんですが、全ての決済代行業者が問題のある業者の決済をやっているわけではないのです。
 また、小口の決済を大量にやらないといけない商売は、決済事務だけで大変なコストになるので、その部分を全部アウトソーシングして決済代行に回すというビジネスモデルはあり得ると思います。しかし、その利便性を上回る問題が発生しているという見方に変わりはありません。

——決済代行業者の本質は何でしょうか?

 決済代行業者のビジネスモデルの本質は、国内の信販会社が加盟店としないような事業者のクレジットカード決済、例えば出会い系やアダルトコンテンツ、風俗店、詐欺まがいの情報商材やアングラ情報など法的な問題のある情報提供サイト等を、海外のアクワイアラー(VISA・Master等国際ブランドの加盟店)を迂回することによって実現することです。国内の取引であるにもかかわらず、いったん海外の決済ルートを迂回しカード利用代金の請求が行われることがミソです。

——決済代行業者とは、具体的にどのような業者を言うのでしょうか?

 株式会社ゼウス(ZEUS)、株式会社ゼロ(ZERO)、GMOペイメントゲートウェイ株式会社、テレコムクレジット株式会社、株式会社インターネットペイメントサービス、株式会社スマートリンクネットワークなど日本に営業拠点のある決済代行業者は大小数十社に上ります。既に述べましたが、全ての業者が悪質業者の決済を行っているわけではありません。

——まず、カード決済の仕組みと決済代行業者の位置づけを簡単に教えてください。

海外アクワイアラを経由したクレジット決済代行の問題点を力説する土井氏。

 少し専門的になりますが、クレジットカードの決済には、「on-us (オンアス)取引」と「non-on-us (ノンオンアス)取引」の2通りがあります。
 一つ目のオンアス取引とは、消費者が使用するカード発行会社(イシュアー)と加盟店と契約しているカード会社(アクワイアラー)が同一であるカード取引をいいます。つまり、客がNICOSカードを使い、花屋で花を買ったとし、花屋がNICOSカードの加盟店の場合、オンアス取引となります。
 二つ目のノンオンアス取引とは、客はNICOSカードを使ったが、花屋はJCBカードの加盟店だった、というようなケースです。客の契約するカード会社と店の契約するカード会社が異なる場合でも、このような取引が成立するのはVISAやMasterなどの国際ネットワークが裏方で決済情報を結びつけているからです。

 決済代行業者とは、今の例でいえば、カード会社と花屋の間に介在し、カード会社が直接加盟店契約を結ばないような業種、業態の事業者にも決済サービスを提供しているのです。
特に、出会い系詐欺や問題のあるコンテンツ料決済を行うような決済代行業者は海外のカード会社等の加盟店となっており、必然的に、決済代行業者を通して決済した取引は全てノンオンアス取引となります。

詐欺被害の回復を複雑にする決済代行業者

——このような決済代行業者が介在するシステムによって消費者の被る不利益について説明してください。

 日常生活でカードを利用する上でオンアス取引かノンオンアス取引かは関係ないのですが、いざ詐欺の決済に使用してしまった場合など大きな問題が生じます。客の使用したカードと業者の加盟するカードが同一であれば、例えば詐欺に引っ掛かったとしてもカード会社は詐欺の業者に支払いを保留し、カード会社の判断で決済を無効にすることも容易に出来ます。

 しかし、ノンオンアス取引の場合、業者の加盟するカード会社(アクワイアラ―)から客の使用したカード会社(イシュアー)に請求が起こされますので、それに対して代金請求の差し戻し(チャージバック)手続きを行うことになります。
双方が協議してチャージバックが認められれば良いですが、アクワイアラ―が応じなければ最終的にはイシュアーはVISA、Masterなどの国際機関に裁定を申し立てるなど、要するに面倒になります。

——出会い系や情報商材の支払いをカードでおこなうと、ドル建てで決済されたり、「SINGAPORE」「MACAU」のように海外の国名が明細書に記載されていることがあります。これはどういうことでしょうか?

 決済代行業者は、大きく2パターンがあります。日本に拠点を置き、日本のアクワイアラ―と正規の決済ラインを結んでいるものと、海外に拠点を置き、海外のアクワイアラ―と契約をして国際決済を行っているものです。出会い系詐欺や情報商材などの決済を行っている決済代行業者は後者の場合が多いです。

 ただし、これらの決済代行業者は海外拠点で決済を行っているといいながら、実際は都内に営業拠点として日本法人や営業事務所を構えて、英語なんか使わないで全ての業務を行っているのですから、要するに建前なんです。しかし、決済ルートは海外経由になってしまうので,イシュアーのカード会社がチャージバックをやりづらくさせている一因になっています。

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