元東京地検公安部長・特捜部副部長 若狭 勝 弁護士
インターネットの悪質商法を詐欺罪で立件するには
特定商取引違反を”入り口事件”にして本丸を目指す
―最近、かねてから消費者問題となっていた出会い系サイト(脚注1)業者が詐欺で摘発されました。情報商材(情報教材)の問題もそうですが、明らかな悪質商法が摘発されるのになぜ、これほど時間がかかるのでしょうか?
一般的に詐欺の事件というのは、騙す意思があったのかどうかが重要になります。出会い系詐欺の場合も結局はその立証が容易ではなかったということです。
こういう組織的詐欺というのは、ある程度パターン化した被害者の数をそろえなければいけないんです。立証するためには犯人が自白すればいいのだけど、「騙していると認識していました」なんてなかなか自白しないですよね。だからそうなってくると、客観的な流れから「これは騙している認識だったんだ」っていうことを立証しなければいけないのです。
そのためには、家宅捜索に入ったりしないといけないわけですけれど、捜索に入る際には捜索差押え令状という、裁判官が出す令状が必要です。
裁判所がそのガサ(家宅捜索)令状を出すかどうかという時には、「怪しい」というだけでは出せないから、例えば1件だけじゃなくて同じような形態の、この犯人と思しきものがやっていると思われることの被害が10件、20件ぐらい集まってくることによって、同じようなプロセスをたどって、同じような形態のもとでお金が払われたけど、その後何もしなかったというような事実を浮き彫りにすることが条件となるのです。
―詐欺の立証は難しいのですか?
組織的、計画的な詐欺の分かりやすい例として「取り込み詐欺」(脚注2)があります。
例えば1件だけだとほとんどそれは民事上の債務不履行じゃないかとかいうふうになってしまうわけですよね。そこがネックになってしまって、なかなか検挙できない。インターネット上の悪質商法もひとつの事例だけであれば、それが債務不履行なのか、刑事上の詐欺なのか判断はつきません。
それが常態的にいくつもある、かなりの数があるという被害の全貌がある程度明らかになると、それは単なる一つの債務不履行というたぐいのものではなくて、いわば全体的に仕組まれた詐欺の中のひとつの現象面ということになる。逆に言うと、同じようなパターンをいくつも集めなければいけないんです。
警察の方はたとえば1件だけ被害者がいて、被害者が警察に名乗り出たとしても、それが本当にその詐欺の、計画的な詐欺の一環としての類の当該1件の事件なのか、そうじゃなくて、やっぱり単なる債務不履行止まりのものなのかというのが見極めをつけたい。
しかし、実際には被害者の調書を集めるというのが大変なんですよ。
脚注1(出会い系詐欺の摘発)
インターネットを利用して男女に出会いの場を提供する「出会い系サイト」では、大量にサクラを動員して男性会員の気を引くメールを送らせ、利用料を騙しとる手法が横行している。こうした状況はかねがね「詐欺まがい」と世の批判を浴びてきたが、ついに今年1月15日、警視庁と宮城県警の合同捜査本部は、詐欺容疑で出会い系業者に対して初の摘発を行った。逮捕された会社役員が運営していた2サイトの会員は男女延べ140万人にのぼり、2005年7月〜2009年4月にかけて約20億円を売り上げていたという。
脚注2(取り込み詐欺)
当初は現金支払いで商品を仕入れておき、取引相手が安心したタイミングを見計らって手形決済での大量注文を行い、手形決済日までに騙し取った商品を現金化して行方をくらます。典型的な詐欺パターン。