元東京地検公安部長・特捜部副部長
若狭 勝 弁護士

2014年10月23日

少額被害の場合、被害者が泣き寝入りモードに

―「出会えない出会い系」の被害者も情報商材の被害者も数十万人単位で存在します。国民生活センターへの相談件数もうなぎ登りです。警察が本気で摘発する気になれば、被害者は声を上げるのではないですか?

 被害者が騙されたことに気付いていないケースも多いのです。出会い系でお金だけ取られて出会えないままに終ったり、価値の無い情報を買わされても皆が騙されたと思うわけではありません。また、このような被害は自慢できる話ではないので、表沙汰になるのを心配して渋るわけです。詐欺を立証する上でそこに一つの壁があるんです。

 昔私がやった事件で公団賃貸住宅の入居応募詐欺というのがありました(脚注3)
当選確率を高くしますといううたい文句で1人から3000円だか5000円ぐらいを集める「広く浅く」という悪質商法の典型でしたが、被害者は「別にもう、泣き寝入りでもいいです」みたいな感じになる。わざわざ警察に名乗り出て、警察に協力して時間を取られて、被害者調書とか取られる暇を考えればその気持ちは理解できる。

情報商材にしても、ひとつの被害は1万円〜3万円程度だから、同じことが言えるのではないでしょうか。こういう業者は被害者が泣き寝入りすることも見越しているんです。


脚注3(入居応募詐欺)
公営住宅への入居抽選には100倍を超える応募が殺到するのが常。しかし、詐欺業者は自社のデータベースに登録しておけば当選確率が格段にアップすると謳い、資料請求用はがきに個人情報を記入させ、投函させる。詐欺業者はこれをもとに、データベース登録料などの名目で数千〜2万円程度を、自宅や勤務先にまでしつこく請求してくるが、もちろん支払っても抽選結果になんら影響はない。

被害が蓄積されれば、警察も勢いづく

―一刻も早い被害の食い止めが望まれます。被害の届けが集まれば情報商材のような新手の詐欺は刑法犯として摘発されるのでしょうか?

 ここがネックというか歯がゆいところです。新商法、情報商材なんかまさにそうだけど、最初、こういう新たなビジネス的な形をとった犯罪的なものが世の中に表れてきたとしても、それが「本当に詐欺なんだ」と断定するためには、結構累積が必要なんです。

 例えば、出会い系は情報商材に比べて世の中で知れ渡っており、被害の蓄積が進んだ結果、警察が初めて摘発に踏み切ったわけです。だから今後はかなりやりやすい(摘発しやすい)と思うけど、翻って情報商材を直ちに詐欺罪で捜索かけられるかというと、警察は渋るんじゃないかな。これから被害がどんどん集積されて、同じような被害者が顕在化してきて、やっぱりこれは、体の好い言葉を使っているけど実態は詐欺なんだということになると、警察の方も今度は勢いがつくと思う。摘発は被害の集積次第。

 何でもそうなんですけど、新たなビジネス的な形をとった犯罪というものに対しては、どうしても経済活動の自由とか、営業の自由だとかいう憲法問題にも絡むから、おいそれと疑わしいからってすぐガサしたりすることはなかなか難しいのです。
 このような新種のものが出てきたときに、本当にそれが被害者の言い分、同じような言い分がどの程度集積できて、どの程度これは犯罪性が濃いと判断できるか警察は見極め、そこからはかなりターニングポイントを迎えて、警察の方も積極的にやろうという機運が高まるのです。
 情報商材も早晩ターニングポイントを迎えることになると思いますが、そのターニングポイントを迎えるまでは、何でこんな被害者がいっぱいいるのに放置してるんだというようなそういう見方、批判的な当局に対する目というのは結構これまでもあったところなんですけれど。

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