元東京地検公安部長・特捜部副部長
若狭 勝 弁護士

2014年10月23日

被疑者の否認を前提に警察と検察で協議を重ねてから逮捕

―ビジネス的な形をとった新規の犯罪の摘発はどのように進められるのですか?

 被疑者は、大体否認します。出会い系であれば、「いやこれ、本当はちゃんと客付けをするつもりだった」とか。はなから「はい、間違いなく詐欺やってました」っていう場合なんてほとんどないわけです。
 普通、警察が逮捕して、検察庁に事件を送致してきてから拘置期限が二十日ぐらいあるわけですが、その二十日近くになったころ、証拠をみて検事の方がこれは起訴にする、不起訴にするっていう判断を下すのが本来のオーソドックスなやり方なんですけど、こういう、初めての事件で、しかも社会的影響が大きくて、これをしくじってしまうと次の検挙がもうやりづらくなるというような場合というものは予め検事と警察の方で協議に協議を重ねて、どういう形で誰を何人ぐらい逮捕するかというのをかなり綿密に打ち合わせます。起訴するという前提の上で、逮捕に至るということが結構あるんですよ。

 予想される弁解も分析した上で「これなら何とかいけるだろう」と逮捕に踏み切る。だから逆にいうと、一か八かで逮捕して、供述、自白してくれたら起訴しよう、というやり方はとらないのです。特に組織的な詐欺の場合はそういう傾向にあります。

「入口事件」でまず家宅捜索。証拠を固めて詐欺で逮捕へ

―それほど摘発が慎重だと、情報商材を詐欺で摘発することは至難のように感じますが?

 そこで出てくるのが「入口事件」という考え方です。これまでも多くの組織的詐欺や悪質商法が入口事件を突破口にして詐欺で立件され、組織を壊滅に追い込み、裁判でも有罪判決が下されています。情報商材販売モールの摘発でも同様に突破口となります。
特捜部の扱う事件はこの入口事件が大事なところなんですよ。円天も和牛商法もエビの養殖商法も本体の詐欺罪ではなく、出資法違反で捜索や逮捕をし詐欺罪で起訴しています。悪質なリフォーム業者やシロアリ駆除業者なども特定商取引法の書面不交付や不実告知を入口に、食品の産地偽装は不正競争防止法違反を入り口に詐欺罪で立件されています。

 入口事件というのは、別件逮捕とは違います。違法な別件逮捕は「本体」を狙っているんだけど、それこそ軽微な犯罪を理由に無理やり逮捕したりすることによって「本体」をしゃべらせようっていうものだけど、入口事件の場合、それ自体がそれなりに悪質で、それで逮捕されても仕方ないとか、逮捕して当然だという事件をいいます。
この場合、被疑者の弁護人の方からもこれは別件逮捕だとか言われない。ほとんど逮捕なんかできないような事件だったら別ですが一応、別件逮捕とか、そしりを受けないある程度「逮捕価値」「起訴価値」のある事件を見つけて取り敢えず逮捕する。
入り口、切り口事件をまず見つけて、それから一斉に家宅捜索をして、で、ドンと証拠を持ってこれるかどうか、確保できるかどうかが組織的な悪質商法の立件の命運を握っていると言っていいでしょう。

情報商材販売モールを摘発するとすれば、先ほど申しましたように「最初の一件」は大事なので、入り口事件をどういう形で、何を入り口事件とするかとかいうのは検事と警察でかなり協議すると思います。協議に協議を重ねた上で、これでやろうという形でやっていきます。

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