元東京地検公安部長・特捜部副部長
若狭 勝 弁護士

2014年10月23日

情報商材なら、特商法違反が入口事件

―情報商材の場合は特定商取引法が入口事件となるとみて良いでしょうか?

 そうですね。特定商取引法(以下「特商法」)は刑事罰がありますから、ガサをする入口事件としては有効です。第12条の誇大広告の禁止は通信販売の広告で「実際のものより著しく優良であり、若しくは有利であると人を誤認させるような表示」を禁じる条文ですが情報商材の多くはこれに抵触するのではないでしょうか。

罰則は72条の1項3号で、100万円以下の罰金で、懲役刑はありませんが刑事罰であることにかわりはありません。情報商材の場合、このマニュアルを買えば幾ら収入が得られる、というような「業務提供誘引販売」に合致するケースが多いですから、その場合はより厳しい罰則が定められています。
誇大広告の罰則は100万円以下の罰金で同じですが、第52条の「禁止行為」で業務による収入について事実と異なることを説明したり、消費者が知らないで購入すると不利益を受けるような重要なことを説明しないことを禁止しています。それぞれ法律用語で「不実告知」「事実の不告知」といいます。

業務提供誘因販売取引には58条で20日間のクーリングオフが義務付けられていますが、「クーリングオフは認められません」と告げることも不実告知となります。これらは第70条で3年以下の懲役又は300万円以下の罰金及び併科と定められています。
実質的に業務提供誘引販売に合致する情報商材のほとんどはクーリングオフを認めず、販売サイト等に「返金はできません」等と記載していますが、これらは違法です。

また、第53条の「業務提供誘因販売取引についての広告」及び省令で通信販売よりも厳格な表示が求められています。例えば業務の内容や報酬の条件や利益の見込みについては、「私は月○十万円の収入を得ています」といった表示をする場合は同じ業務を行っているものの中でそれと同等の収入を得ているものが多数を占めることを事実に基づいた根拠で示すことが義務付けられています。

また、販売業者の氏名や名称は個人であれば戸籍名、法人であれば登記名を正確に記載することも義務付けられており、情報商材の販売者に多い屋号や偽名、ペンネームやサイト名での販売は違法となります。これらに違反した場合も100万円以下の罰金に処せられることになります。
さらに、55条での「業務提供誘因販売における書面の交付」で商品の販売前に書面の交付を行うことが義務付けられています。細かくなるのでここでは省きますが(脚注5)販売者の情報や業務の内容や収入の条件等を詳細に記載しなければなりません。

これらの書面は日本工業規格の8ポイント以上の大きさの文字を用いなさい、ということまで省令で定められており、書面の不交付や不備、虚偽記載には6月以下の懲役又は100万円以下の罰金が科せられます。これらの書面を交付せず業務提供誘因販売を行っていれば明らかに違法であり、摘発の要件になります。

——例えば、情報商材の中には、人気アーチストの未公開の音源、つまりデビュー前に作った曲をネットで拾ってきてCDに焼いてヤフオクで売りなさいと。そうすれば稼げますという内容のものがありました。これは一例ですが、違法行為を教唆する情報商材の内容について幇助や教唆、共犯として捜査の端緒とすることはできないのでしょうか?

 捜査する側からするとリスキー。ただ去年ですがこういう例がありました。ご存知の通り大麻の所持は違法ですが、大麻の種自体は所持していても処罰はされないのです。つまり抜け穴。種から栽培して大麻草を持っていると、処罰されます。で、ネットで「観賞用」とかいって種を売っていた人がいたのですが、逮捕されました。

結局、何で逮捕されたかというと、種を売るということは、相手方は少なくともその種を栽培して、芽を出させて大麻草を栽培するということが分かっていながら売っているんだと認定して大麻取締法違反のほう助でやったんです。だから、単に「読み物」として違法行為を書いたマニュアルを売りましたということは通用しないということも言えると思います。
ただ、入口事件としては弱いね。やるのであれば特商法でやると思う。可能性という点では販売者や情報商材販売モールが脱税を行っている場合、法人税法違反や所得税法違反で捜索して帳簿から何から全部押収して事実解明をするという方が現実的。しかし脱税事件は国税庁と検察庁がタイアップして行うもので慣例的に警察の仕事ではありません。


脚注5(法定交付紙面)
特定商取引法が定める業務提供誘引販売に該当する取引の場合、事業者は契約を結ぶ前に、契約の概要について記載した書面(概要書面)を取引相手に交付しなければならない。さらに、契約を結んだ後にも、契約内容を記載した書面(契約書面)を交付しなければならない。

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