元東京地検公安部長・特捜部副部長
若狭 勝 弁護士

2014年10月23日

摘発できるかどうかは騙しの程度と被害の集積

―特商法を入口事件とし、捜索をかければ詐欺罪で起訴するのは容易なのでしょうか?

 新聞には逮捕されたり起訴されたものだけが載りますから容易な印象があるかもしれませんが、詐欺で起訴するには慎重な事実の積み重ねと捜査が要求されます。
情報商材について販売者や情報商材販売モールを詐欺罪で起訴する場合に検討する部分は、PDFファイルなどを一応引渡しているという点です。つまり、一応物体がある。それこそ「はい、これ買いませんか」ってお金だけ払わせて、全く品物は渡さないっていうのは典型的な詐欺なんでやりやすいんですが、そんな単純な詐欺は逆に少ないです。
情報商材の場合も例え二束三文のものでも対価物を引き渡している。被疑者からは「一応情報は渡している」という弁解が出てくること思うので、それを「そういうふうに見ようと思えば見えなくはないが、実際は全然内容が伴っていないんだから、実質詐欺でしょう。」という主張を詰めなければならない。起訴する以上、100%有罪判決をとらなければならないからです。

考え方として似た例として原野商法があります。例えばほとんど利用価値がないような土地を売りつけるわけですが、そもそも全然土地を渡してもいないというんだったら簡単な話なんだけど、一応土地が動いている。だから原野商法は摘発出来たケース、出来なかったケースが分かれました。同じ原野といっても販売する時にどのような説明をしていたのかによって違ってくるのです。個別事案にかかっていました。
 情報商材についても同様に個別の事例について判断していくことになります。情報商材の販売モールや販売者と一口に言っても、それぞれ騙す程度や内容は異なりますから、摘発できるケースと出来ないケースに分かれます。原野商法みたいに、100万、200万という被害金額だとやりやすいけど、情報商材はひとつの被害額が数千円〜数万円と少ないので、被害の集積こそが摘発のカギです。

―情報商材のビジネスモデルは最高で90%近い報酬を受け取るアフィリエイターの存在が支えています。実際に消費者に販売者及び商品を紹介するアフィリエイターは詐欺罪に問われることはないのでしょうか。

 販売者が詐欺罪に問われば、アフィリエイターが共犯として罪に問われる可能性があります。アフィリエイターのみが罪に問われることは考えにくいです。

内部の関係者の証言が捜査の突破口に

―警察が動きやすい、やる気になる条件というのはあるのでしょうか?

 会社や組織を辞めた人間とか、何らかの形で既に関係を断ち切った人間を協力者として確保できるとやりやすいですね。まず事情聴取する。辞めるっていうのは、何らかの理由があって離れたんだですから、真相を話しやすい。包み隠すことなく話してもらえることが多い。
恨みがあるってわけじゃないにしても、例えば退職するときに何か口止め料的にお金をいっぱいもらっていれば別だけど、面白くない思いを抱えて辞めていればしゃべりやすい。こういう人が「やっぱりこの組織っていうのは実際は詐欺集団ですよ」というようなことを言ってくれると突破口になる。

―インターネット消費者犯罪のような広域事犯に対して警察の体制は追いついていないように思われますが?

 例えば警視庁の下には多くの所轄がありますが、それぞれの所轄で単発で同じ事案をやっていることが多いのは事実です。
思い出すのは3万5000人の被害者を出した山口組系暴力団五菱会による闇金融事件です。全国に店舗があってそれぞれの所轄が所轄単位で捜査していたのが、だいぶ後になって全国に張り巡らされた縦割りのグループ分けの実態が解明されてきたんです。
警視庁なら警視庁の本部にちゃんと所轄が話を上げて、警視庁本部の中でそういう事案の実態、全体像を把握するというようなことっていうのは大事だし、最近はそういう傾向にあると思います。これは仕組みもさることながら、現場の捜査員の意識の問題も大事です。もっと時代に合わせた警察の変革は求められるところだと思います。

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