[解説] 電子出版の全貌と未来
~電子書籍ビジネス発展への処方箋~

湯浅 俊彦

夙川学院短期大学児童教育学科准教授 大阪市立大学大学院創造都市研究科都市情報環境研究領域博士(後期)課程修了。日本出版学会理事、日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長などを歴任。『電子出版学入門 出版メディアのデジタル化と紙の本のゆくえ』(2009年・出版メディアパル刊)ほか著書多数。

第1章 電子出版の定義をめぐって

「だれが電子書籍を殺すのか?」という特集タイトルは言うまでもなく、21世紀初めの出版業界を震撼させた佐野眞一著『だれが「本」を殺すのか』(プレジデント社、2001年)に由来している。佐野氏が提起したのは出版をめぐるグーテンベルク以来の地殻変動の問題であり、その克明な取材によって明らかにされたのは出版業界の制度疲労の実態であった。しかし、今日の電子出版の動向の中でも電子書籍を殺しかねない新たな問題が起こっている、というのが本特集のテーマである。

 電子出版と一口に言ってもその定義は意外と難しい。
CD-ROMのようなパッケージ系の電子出版物が登場したのは1980年代。その後、1990年代に入ると電子辞書が登場し、2000年代にはPCにダウンロードして読む「電子文庫パブリ」のようなタイプの電子出版が主流となる。
また現在ではケータイ、ニンテンドーDS、ソニーのPSP(プレイステーションポータブル)、iPod touchなど、さまざまなデバイスにデジタル化された出版コンテンツが配信できるようになり、2010年代にはアマゾン「Kindle」日本版の発売などが注目されている。さらにこのような「電子書籍」に加え、今日では「デジタル雑誌」のタイトル数も増えつつある。

 そこでここでは電子出版を便宜上、次の7つに分類しておこう。
(1)CD-ROMなどのパッケージ系出版物、(2)電子技術を利用してディスプレイで読む「電子辞書」、(3)書籍や雑誌など紙で出版された資料をデジタル化し、オンライン配信で提供する「電子書籍」や「デジタル雑誌」、(4)編集段階からデジタル化された学術雑誌をオンライン配信で提供する「電子ジャーナル」、(5)「ケータイ小説」のようにもともとデジタル・コンテンツ(ボーン・デジタル)としてオンライン配信で提供するもの、(6)貴重書、郷土資料、地域資料、行政資料など図書館の所蔵資料をデジタル化し提供するもの、(7)「Yahoo!Japan辞書」のように検索エンジンに搭載されたもの、(8)「JapanKnowledge」「化学書資料館」「NetLibrary」のように出版されたコンテンツを統合的に検索し、閲覧することができるもの。

 このように電子出版とは、「デジタル化された出版コンテンツをパッケージ系電子メディアやネットワーク系電子メディアを用いて読者に著作物として頒布すること」とここでは定義しておきたい。

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