[解説] 電子出版の全貌と未来
~電子書籍ビジネス発展への処方箋~

第3章 電子書籍の市場規模を考える

 電子書籍の統計については正確な数字は存在しない。そもそも電子書籍の定義が困難な上に、電子書籍を刊行している業界団体が毎年網羅的な調査を行い、統計をきちんと発表しているというわけではないからだ。
 したがって電子書籍の場合は『出版年鑑』と『電子書籍ビジネス調査報告書』(インプレスR&D)の数字がしばしば引用されることになる。
『出版年鑑2009』に掲載されている電子書籍のタイトル数は、2008年1月から12月までの発行点数25,611件(各サイトの要望で掲載していないものがあり、点数にすると298,250点。同タイトル重複やフォーマット重複も1点と数えているため実数はもっと少なくなり、また全件数は収録しきれないとして文芸書、コミックなどを中心にアダルト物や写真集を除いた主要なものを掲載)。
ちなみに紙の本は2008年1月から12月までの新刊書籍点数79,917点(件数にすると78,013件)となっている。

 一方の『電子書籍ビジネス調査報告書2009』の場合、電子書籍の市場規模が掲載され、2008年度はPC向け62億円、ケータイ向け402億円の合計464億円としている。
 ところがこのような調査からは抜け落ちてしまう電子書籍群があることを忘れてはならない。
例えば紀伊國屋書店が提供している大学図書館向けの電子書籍サービス「NetLibrary」では2010年1月現在、51社1420タイトルの和書コンテンツを提供しているが、これらの電子書籍は1タイトルごとに買切商品として大学図書館に販売されているものであり、この販売金額は『電子書籍ビジネス調査報告書』の統計には反映されない。

 ほかにも日本化学会と丸善が提供している「化学書資料館」は『化学便覧』『実験化学講座』など専門書・便覧・辞典147冊、約83,300ページを検索・閲覧できるサイトであり、一般法人であれば所属人数に応じて31万5000円から42万円まで、個人であれば21,000円の年間利用料金を支払う方式だが、やはりこのような統計には載らない。
 また国内で提供されている電子書籍のコンテンツは出版社系だけではない。例えば「魔法のiらんど」が運営する「魔法の図書館」のように無料で13万タイトルものコンテンツを提供しているサイトが存在するが、『出版年鑑』の刊行点数には反映されないのである。

 グーグルの「ブック検索」訴訟和解案に見られたように、すでに品切れ・絶版になったタイトルが「版権レジストリ」で管理、電子書籍として再び販売され、また米国・アマゾンの「Kindle」のようにベストセラー本が紙媒体よりも安く読書端末で購入・閲覧できるとなると今後、電子書籍の市場規模は想像以上に拡大することは間違いないだろう。

 しかし、意外と注目されていないのが「情報商材」と呼ばれる市場の動向である。次章以降で述べるように「情報商材」市場がまさにこれから離陸しようとしている電子書籍市場を食い荒らすような形で拡大する可能性があることはもっと知られてよい。

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