第7章 出版コンテンツを握る覇者は誰か?
電子書籍では従来の「出版社―取次―書店」というこれまで出版業界を支えていた三位一体の体制はまったく機能していない。つまり
「出版社」、「コンテンツプロバイダー(電子書籍販売サイト)」、あるいは「ケータイ電話キャリア」が中心となり、さらに最近では取次業務を行うコンテンツプロバイダーの役割が重要視されているのである。
しかし、コンテンツプロバイダーが果たす役割はそれだけではない。出版社がこれまで担ってきたコンテンツそのものの生産にもかかわるようになってきたのである。
ここではコンテンツをだれが握るかという、読者からは見えにくい隠れた次元で行われている競争を概観してみよう。
まず、1995年に開設された「電子書店パピレス」のような電子書籍の配信事業を行うコンテンツプロバイダーは当初、出版社からコンテンツを提供してもらえず、作家に直接交渉するところからスタートした。
自分たちの頭越しに著者がコンテンツプロバイダーと契約を結ぶことに危機感を感じた出版社は、1997年の「光文社電子書店」開設のようにこの動きに対抗し、2000年には出版社が共同して「電子文庫パブリ」を立ち上げる。
ここまでは「文庫」を持っていなかった出版社が対抗上「文庫」を創刊するのに似た構造である。
しかし、今日では「ケータイ★まんが王国」を運営するBbmf(ビービーエムエフ)のように約600人の作家と直接契約するコンテンツプロバイダーも現れ、ケータイ向け作品に特化した新しいまんが作家の発掘にも力を入れるなど、電子書籍における出版社の役割を果たすところさえ現れてきている。
一方、グーグルによる「ブック検索」訴訟和解案によって米国では「版権レジストリ」が設立されることになったが、この騒動は日本の出版社の権利ビジネスの空洞化を白日の下にさらすことになった。
すなわちグーグルの交渉相手は出版社ではなく、著者であることが誰の目にも明らかになったのである。
さらにアマゾンが「Kindle」を日本でも発売する計画を進め、すでに米国において著者への印税を35%から70%に条件付きで引き上げると発表している。
つまり今、出版業界で起こっていることは出版コンテンツを握る覇者は誰かという激しい競争であり、現在の局面では出版社の劣勢は明らかであるということなのである。