[解説] 電子出版の全貌と未来
~電子書籍ビジネス発展への処方箋~

第8章 出版の未来に出版社や編集者は不要なのか?

 紙媒体で発行される出版コンテンツは長期的に見れば減少していくことだろう。すでに雑誌連載→単行本化→文庫化→全集や著作集への収録といったこれまでのビジネスモデルはかなりの程度まで崩壊しつつある。

 まず雑誌の休刊が相次いでいる。『出版年鑑2009』によれば、2008年(1月〜12月)の雑誌の実売総金額は1兆1,731億円(前年比4.1%減)とピーク時である1996年の1兆5,984億円より4,252億円も減少している。
この12年間に減少した4,252億円という数字は国内最大の取次である日本出版販売の年間売上高6,327億円(2009年3月)の約7割に匹敵する額であり、雑誌市場がいかに凄まじい勢いで縮小しつつあるかが分かる。

 日本雑誌協会ではこのような事態を打開するために「雑誌コンテンツデジタル推進コンソーシアム」(リンク:PDF)を設立し、100誌の雑誌をデジタル化し、実証実験を今年1月下旬から2月にかけて行うことになっている。
 また今年6月に刊行予定の『小田実全集』全89巻(講談社)のように、紙媒体の個人全集はもはやビジネスとして成り立たず、電子書籍での刊行となるケースが増えていくだろう。

 つまり出版業界は紙媒体の市場縮小化を受けて、出版コンテンツをデジタル化し、新たなビジネスモデルを構築することによって切り抜けようと模索しているのである。

 しかし、出版業界の制度疲労の問題はじつはコンテンツそのものの問題抜きには語れないのではないのだろうか。
前述の雑誌休刊の例で言えば、雑誌に発表の場を持っていた著者は書く機会を失うわけであるが、雑誌というメディアとそこで発表されていた情報内容が読者の支持を得なかったのはなぜかという問いから逃げてはいけないだろう。また「個人全集」という商品が売れないことの理由を出版社や著者はきちんと考える必要があるということなのである。

 電子書籍化すれば読者を獲得できるわけではない。優れた校閲作業という編集過程を経た出版物の重要性は決して滅びることはないだろう。
今は逆に電子書籍によって読者は本当に満足できるのかという点を真剣に考えておく必要があるのではないだろうか。
 また一方で出版コンテンツのデジタル化は発信にかかわるコスト低減化をもたらし、そのためにいわゆる粗製乱造となる可能性が高くなる。編集過程を経ないデジタル系出版物の氾濫である。

 さらには「情報商材」のような悪質なコンテンツビジネスが電子書籍に対する信頼性を貶める状況さえ現れている。
「情報商材」については今後、日本の電子出版関係団体が審査制度を創設するなどして、国や地方公共団体による表現規制とならないように配慮しながら、消費者被害を防ぐ対策が必要であろう。
 デジタル化とネットワーク化を特徴とし、情報量が飛躍的に増加している今日の社会にあって、信頼すべき情報源を提供する出版社の存在や編集者の役割はむしろ大きくなっていくはずだと私は思うのである。

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