第2章 電子出版の歴史はどうなっているのか
電子出版の歴史を振り返ると、デバイスの多様化と短命化が特徴的である。ある出版社のデジタル担当者は、電子出版についてのシンポジウムの席上「“電子書籍元年”ともう10回はいわれてきたのではないか」と語っている。
日本での電子出版の歴史は1985年10月、『最新科学技術用語辞典』(三修社、定価6万円)がCD-ROMで発売されたところからスタートする。2年後の1987年7月、岩波書店が『広辞苑』CD-ROM版(定価2万8000円)を発売したことで、CD-ROM出版は広く社会に認知されるようになった。
しかし1980年代のCD-ROMはあくまで図書館や研究所という機関ユーザー向けであり、個人向けCD-ROMの普及は1990年7月にソニーが発売した8センチCD-ROM専用の電子ブックプレーヤー「データディスクマンDD-1」まで待たねばならなかった。付属の「電子ブック」には三省堂の『現代国語辞典』『ニューセンチュリー英和辞典』など5冊の辞書が収められ、約17万語を検索することができた。
この電子ブックプレーヤーは今日では、辞書コンテンツを半導体メモリに収めた専用機としての「電子辞書」に引き継がれていく。
一方、1999年11月に出版業界がスタートさせた「電子書籍コンソーシアム」による実証実験は電子出版における1つの大きな転換点であった。なぜなら従来のハードメーカー主導型ではなく、出版社が中心となって約5000タイトルの紙の本のデジタルデータ化に取り組み、マルチメディア機能よりも本を読むことに重点を置いた高精細度の液晶を搭載した読書専用端末の開発に力を注いだのである。
この取り組みは2000年9月に開設された「電子文庫パブリ」のようなオンライン配信による電子出版の道を拓いていくことにはなったが、読書専用端末の普及は思うように進まなかった。
2004年には松下電器(現・パナソニック)のΣブック、ソニーの「LIBRIe」という読書専用端末が発売されたが、定着するまでには至らないまま生産中止となり、「最強☆読書生活」や「タイムブックタウン」といった読書専用端末のための電子書籍サービスも2008年から2009年にかけて相次いで閉店してしまうのである。
その後、電子書籍を閲覧するための端末は、ケータイ、ゲーム機、iPod touchなどのデバイスに拡がり、特にPCからケータイへの移行が顕著になってきている。 最近になって、電子書籍を読むためのデバイスは、大きな転換点を迎えている。
アマゾンは2007年11月、データ通信機能を内蔵した読書専用端末である「Kindle(キンドル)」を米国において発売、電子書籍がPCを介さずそのままキンドルにダウンロードできることや、9.99ドルの本もあるといった廉価さが評判を呼び、今後日本での発売も予定している。
また、アップルはタブレット型コンピュータ「iPad」を今年3月に全世界で発売すると発表。「iBookストア」で電子書籍をダウンロードして電子書籍アプリケーション「iBook」で読むという、音楽配信における「iTunesストア」と「iPod」と同様の展開を電子書籍の分野で図ろうとしている。
このような新たなデバイスの動向に対して、講談社、小学館など出版社21社は「日本電子書籍出版社協会」を今年2月に発足させ、新たな電子書籍市場の構築に向けて次の一歩を踏み出そうとしているのである。