第5章 電子書籍と「情報商材」の違いはなにか
「情報商材」ビジネスでは、「情報商材ASP」「発行者」「アフィリエイター」という3者が主要プレイヤーとなって「情報商材」を販売している。
一方、電子書籍でもこのようなしくみが存在する。すなわち、「出版社」と「コンテンツプロバイダー(電子書籍販売サイト)」である。
ここで注目しておきたいのは電子書籍における「取次」の登場である。従来の紙媒体の書籍であれば、「出版社―取次―書店」という出版流通経路が主流であった。
一般にIT革命は流通の中抜き減少をもたらすと考えられてきたが、実際にはそうはならなかった。
例えば海外で発行される学術出版系の電子ジャーナルにおいても、個々の出版社ごとに操作の仕方や契約のあり方が異なっているため、より使いやすい情報のプラットフォームを提供するアグリゲータ(複数の出版社のコンテンツを束ねて提供する業者)の存在が重要になってくる。
同じように電子書籍の分野でも物流のかわりに情報流における新たな仲介業としての電子書籍の「取次」が生まれてきたのである。
例えば「ビットウェイ」は1997年6月に凸版印刷の「コンテンツパラダイス」として出版社系コンテンツのネット配信からスタートし、2000年3月にPC向け電子書籍販売サイト「ビットウェイブックス」を運営し、2005年10月に㈱ビットウェイとして分社化したコンテンツプロバイダーである。そのビットウェイが電子書籍の取次事業を展開した。
電子書籍販売における取次の必要性は、出版社、コンテンツプロバイダーの双方にあり、そのしくみは完全にパッケージ化されている。売れるようなファイルの形、表紙画像、書誌情報、内容紹介の4点セットを凸版印刷のサーバから電子書籍販売サイトに送っている。利用者は電子書籍販売サイトにアクセスして、電子書籍をダウンロードしていると思っているが、じつは凸版印刷のサーバのファイルを見に行っていることになる。
ではここで「情報商材」と「電子書籍」の違いを考えてみよう。その違いは明らかに「電子書籍」はもともと出版社が刊行した紙媒体の本が存在するということである。つまり、出版社というブランド力が購買にあたっての重要な要素となりうる。そこには一般的には編集者による編集作業が行われ、誤字の訂正だけでなく、ファクトチェックと呼ばれる校閲作業が行われる。
編集過程がいい加減な出版社の出版物は信頼度も低いのが常識である。
また、凸版印刷のビットウェイ、大日本印刷のモバイルブック・ジェーピーというように印刷会社関連のコンテンツプロバイダーが取次業務を行うことは、出版社にとっては大きな安心感がある。
もともと出版されるコンテンツの最終版のデータを保持しているのは著者でもなければ出版社でもなく、まさに印刷会社である。次々と起業する電子書店サイトにコンテンツを預けるのは不安だが、もともと最終版のデータを持っている印刷会社の関連会社のコンテンツプロバイダーであれば信頼が置けるということなのである。
このように出版社というブランド力によって情報内容を担保された出版コンテンツが、信頼できるコンテンツプロバイダーによって流通するというのが出版社が生み出した電子書籍ビジネスの基本であろう。
しかし、これからは元になる本のない、すなわち「ボーン・デジタル」の電子書籍が増えていく可能性がある。今後ますます、電子出版の特性に合致した新しい表現も生み出されていくに違いない。また、そうでなければ電子出版はメディア革命とはいえないだろう。
ただ、そこに至るまでには解決されるべきさまざまな課題がある。だからこそ、「情報商材」と呼ばれるデジタル・コンテンツ流通のニッチ・マーケットの動向も見逃すことができないのである。