電子マネー&ポイント、仮想通貨の行先は?

2013年11月15日

激変する広告の形、消費の形

 ポイントプログラムというのは、形を変えた新たな「クリック・アンド・モルタル」である。
 クリック・アンド・モルタルというのは1990年代に流行したネット業界の用語で、オンラインショップと現実の店舗を組み合わせて、たとえばネットで商品の紹介や在庫検索を行って、実際の品物の販売や受け渡しはリアルの店で行うといった手法を指していた。

 商品の購入を一連の流れでとらえると、次のようになる。

 商品企画→マーケティング→商品認知→購入→決済→アフターサポート、フィードバック

 90年代のクリック・アンド・モルタルモデルは、この商品認知から購入までをオンライン化し、その他の部分はリアル店舗で担うという考え方だった。
だが2000年代の新たなクリック・アンド・モルタル——つまりポイントプログラムは、オンラインの領域をさらに拡大し、マーケティングから商品認知、決済、フィードバックといった部分を幅広く覆っている。
購入という物理的な行為のみがリアル世界に残されているというのが、ポイントの世界のクリック・アンド・モルタルの実相である。つまり、リアルの物販とインターネットのウェブ2.0的データベースを結びつける新たな仕組みとしてとらえるべきなのである。
 そのような観点でポイントプログラムや電子マネーをとらえると、今後向かうべき方向性と課題も見えてくる。

 まず第1に、これら仮想通貨はインターネットマーケティングとどのようなかたちで融合し、あるいは関係していくのか。
インターネットのマーケティングはいまや、検索連動型広告などのコンテンツターゲティングから顧客の行動ターゲティングへと進み、サイトのコンテンツの内容と顧客の好みをマッチングさせるだけでなく、顧客の行動履歴や属性などを取り込んで、顧客のキャラクターに合わせた広告をいかに放り込んでいくのかという方向に進んできている。
先鋭的な(そしてかなり危険な)分野では、「顧客の気づかないうちに顧客の情報を入手する」という技術、手法までが現れてきている。
 しかし実は、これと同じようなことを仮想通貨の側も実施しつつある。

 たとえば関西の鉄道会社が発行しているICカード乗車券のピタパ(PiTaPa)は、駅駅の自動改札機を通るたび、乗降駅や時間帯などに応じて、周辺のグルメ情報や広告が自動的に携帯電話にメール配信される仕組みになっている。
おそらく今後、このような仕組みは鉄道だけでなく、他の電子マネーやポイントプログラムにも波及していく。電子マネーを使ってデパートで特定の高級化粧品を買った後に、フレンチのグランメゾンで食事をした女性がいれば、その行動をターゲティングし、さらに性別や住居地、年齢などを加味して「次に行くべきバーはここでは?」という広告情報を提供する、というようなモデルは十分に考えられる。

 第2には、仮想通貨がインターネットのデータベースと連携していくのであれば、この仮想通貨システムは共通プラットフォームになっていくのだろうか、という課題だ。
 仮想通貨を発行している各社は、顧客を囲い込む手段としての意義を最も重要視している。後発だったセブン&アイ・ホールディングスがエディに参加せず、独自にナナコという電子マネーを発行することに決めたのも、この囲い込みを崩したくなかったからである。
そのような流れを考えると、共通プラットフォームの実現は難しいように思える。

 一方、政府の考え方は次のようなものだ。
 國領二郎慶應大学教授が座長を務めた経済産業省の企業ポイント研究会は2007年7月、ポイント交換などのプラットフォームを統一するよう提案する報告書をまとめている。日経流通新聞の記事によれば、次のような内容だ。

 <同研究会はスーパー、家電量販店、カード会社、航空会社などポイントやマイレージにかかわる企業の関係者ら27人で構成。2月から9回にわたって非公開で議論してきた。
 メンバーには消費者代表は含まれておらず、報告書は、ポイントは販促策として企業側にメリットがあるだけでなく、消費者にも「喜ばれている」という基本認識でまとめた。

 専門業者も増えて盛んになっているポイント交換については、異なるポイント間のデータ交換を柔軟に素早くできる統一フォーマットを提案。「外国企業を含むポイント事業への新規参入が促進され、企業ポイントに関する国際提携も容易になる」と指摘した。さらに、電子マネーと連携することで消費促進が図れるとみている。
 ポイント交換条件などを消費者に不利益になる形で変更することについては、「顧客満足を毀損(きそん)するリスクを事業者が自ら判断してあえて行うもので、柔軟に事業判断を行い得る必要性がある」などの指摘を紹介した>(2007年7月4日、日経流通新聞)

 つまりはポイントのシステムそのものを共通化するのではなく、交換プラットフォームを共通化していくべきだという考え方である。報告書にはこうある。

 <企業ポイントの交換をより柔軟かつタイムリーに行うために、データ交換のフォーマット(インターフェース)を効率的に共用できる仕組み(プラットフォーム間の相互運用性の確保)を構築することも一案である。プラットフォーム間の相互運用性が確保されれば、ポイント事業に参入したり提携関係を構築する際のシステム投資等のコストが低減することから、外国企業を含むポイント事業への新規参入が促進され、企業ポイントに関する国際提携も容易になる。結果として、消費者の利便性がさらに向上するものと考えられる>

 おそらくこのようなインターフェイスの共通化が、今後の最大の注目点となっていくだろう。

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