英ベットラック社に日本国内法は及ばない
ブックメーカーが注目を集めている。ブックメーカーというのは、日本語に訳せば「賭け屋」「胴元」。サッカーや野球といったスポーツのほか、選挙の勝敗や政党支持率、映画の興行ランキング、テレビの視聴率、明日の天気まで数字になるものなら何でも賭けの対象にしてしまう業者のことだ。
たとえばマン島に本拠地を置くBFIM社が運営する「ベットラック(Betluck)」。英語圏で人気のあるブックメーカー大手である。ベットラックのウェブサイトは完全に日本語化され、プロ野球やJリーグ、大相撲、さらには公営宝くじのナンバーズ4まで、日本国内のありとあらゆるイベントに対して賭けを行えるようになっている。
もちろん儲けた金を日本国内で現金化することも可能だ。
会員登録はサイトから簡単に行える。住所と名前、年齢などを登録するだけだ。
最初に「私は20歳以上です」「私に前科はありません」という2つの項目をチェックさせられるが、普通の大人なら問題はないだろう。ベットラックへの登録が完了すると、さらに電子マネーサービスへの登録も行う必要がある。
ベットラックと連携している電子マネーは「ネッテラ」というサービスで、こちらも住所や名前、年齢などを入力し、さらに運転免許証かパスポートの番号を入力すれば登録は完了する。
電子マネーへの入金は、クレジットカードとデビットカード、インターネットバンキング、振込送金の4種類から可能だ。入金は15ドルから可能で、入金のたびに3.9%の手数料がかかる。ネッテラに入金が完了すると、ここからベットラックに賭け資金を移動することができる。移動が完了すると、ベットラックのマイページに、
BETTING可能ポイント:1500
BETTINGポイント:100
と表示される。
BETTINGというのは賭けのことだ。ポイントというのはベットラック内の通貨単位で、1ポイントは約1.2円。上記の表示で言えば、1800円をネッテラからベットラックに移動させたことで、現在1500ポイントを賭けることができるようになっている。そして現在、そのうち100ポイントを賭けている状態になっているという意味だ。
ひとつのイベントに賭けられるのは最低100(約120円)ポイントからで、上限は10万ポイント(約12万円)。
また1か月に賭けられるポイントは上限100万ポイント(約120万円)に制限されている。そして先にも書いたように、あらゆるイベントが賭けの対象になっている。
ブックメーカーが日本に本格的なサービスを提供するのは、実に15年ぶりだ。ロンドンに本拠を置くマニングが、会員制の賭けビジネスを日本でスタートさせた1992年以来のことである。
このときマニングは、日本企業と代理店契約を結び、この代理店を通じて会員を集めた。入会金1万円と年会費1万5千円を払い、さらに指定の賭け金をナショナル・ウェストミンスター銀行東京支店の口座に振り込むという手続き。
この会費や賭け金はいったんイギリスに送金され、イギリス政府の賭け税10パーセントを払った後に配当が計算され、日本に逆送金する仕組みだった。
そして実際に大相撲初場所を対象にして、会員募集をスタートさせたところ、問い合わせが殺到して、代理店の電話がパンクするほどの超人気となったのである。
ところがこのときは、警察庁が「理論的には違法行為に当たる」と判断し、警視庁などが「とばく罪が成立する疑いが強い」として捜査に乗り出した。
結果的にマニング社は撤退し、すでに会費を振り込んでいた約100人の日本人顧客には返金され、以降、海外のブックメーカーが日本に上陸してくることはなかった。
ベットラックが今回、日本でサービスを提供できているのはインターネットが国境の存在を希薄にしてしまっているからだ。ベットラックはウェブサイトで客を集め、しかもそのウェブサーバは日本警察の力が及ばないマン島にある。
さらに換金についても、ネッテラというロンドン株式市場に上場しているイギリス企業の海外電子マネーサービスを利用しており、これを経由した金の流通を防ぐ方法はない。
つまりはサービスやマネーがインターネットによってグローバリゼーションに開放されつつあることを背景にして、ベットラックの日本進出は成り立っていると言えるのだ。