ポイントで進化する販促手法

2013年12月13日

個人消費300兆円の開拓と囲い込み

 「広告費がポイントプログラムに流れ始めている。ポイントはこれまでの広告と違って、効果測定ができるというメリットがある。ポイント会員向けの会報やメールマガジンなどに告知することで、情報を目的とした顧客に提供できる効率の良さもある。今後、日本国内で年間二十兆円はある広告費と販促費がポイントプログラムに一定部分は吸収されていく可能性は高いのではないか」

 電子マネーやポイントプログラムに関する情報を一元的にまとめたアグリゲーション(情報集約)サイト「ポイント探検倶楽部(ポイ探)」の佐藤温社長は、以前私の取材にこう話している。
ポイ探は、インターネットを使ったポイント交換案内サービスだ。

 ポイ探を使うと、ポイント同士を交換する際の交換ルートの検索と、その際の交換レート、交換にかかる日数を知ることができる。たとえばクレジットカードのDCカードのポイントを全日空のANAマイレージクラブに交換しようと思っても、両者は提携していないため、直接交換することはできない。
だがDCカードとツタヤ、ツタヤとANAはそれぞれ提携しており、DCカード→ツタヤ→ANAと順に交換していけば、DCカードのポイントをANAのマイレージに変更することができる。
数十のポイント、マイレージ、電子マネーなどが乱立している現状でこの相関関係は複雑怪奇だが、ポイ探のようなアグリゲーションサービスを使えば、一発で検索できるというわけだ。

 ポイ探のようなサービスが出てくるのを見ても分かるとおり、電子マネーやポイントプログラムはもの凄い勢いで乱立している。
 電子マネーでは、エディ(Edy)が利用店舗数最大で、特に大手コンビニチェーンが充実。am/pmとファミリーマート、ローソン、サークルK、サンクスの全店で利用できる。このエディに続くのがJR東日本のスイカ(Suica)と首都圏私鉄各社で共同発行しているパスモ(PASMO)。相互利用を実現しており、バスや鉄道、地下鉄などの利用には欠かせない。
 さらに後発として、セブン&アイ・ホールディングスがセブンイレブン全店で使えるナナコ(nanaco)を発行し、今後イトーヨーカドーやデニーズなどでも使えるようになる計画を進めている。
さらにイオンはワオン(WAON)を発行し、関東一都六県を中心とするジャスコ、サティなどで利用できる。

 ポイントプログラムはさらに複雑だ。
おそらく日本国内で提供されているポイントの数は、数百を下らない。矢野経済研究所が2007年5月に発表した「主要企業のポイントプログラム動向に関する調査結果 2007年版」によれば、小売や飲食、レジャーなどの主要企業計534社の中で、ポイントプログラムを自社提供していた企業は52.8パーセントに上っていたという。
また野村総合研究所によると、日本国内のポイント発行総額は4500億円以上で、300兆円を超す個人消費全体の15%程度がポイント付与の対象になっている計算になるという。

 なぜこのように電子マネーやポイントが乱立し、しかも統合されていないのだろうか。たとえば後発のセブン&アイ・ホールディングスはなぜエディに参加せず、独自にナナコという電子マネーを巨費を投じて立ち上げたのだろうか。
 答は簡単だ。電子マネーやポイントプログラムは顧客囲い込みの手段として最も有効で、顧客の情報の管理もダイレクトにおこなえるからである。
冒頭に紹介したポイ探の佐藤社長の解説は、それを的確に表しているといえるだろう。
 ポイントプログラムのメリットを箇条書きにすれば、次のようなものだ。

(1)顧客属性の入手 これまで、小売店や飲食業、レジャー産業などでは、顧客の属性を入手するのは難しかった。コンビニのレジで客の年齢層や性別などを手作業で入力する方法など、ごく原始的な方法しか存在していなかったのである。
ところがポイントプログラムを使えば、顧客の住所や年齢を簡単に入手できる。それに加えてその顧客が、いつどんな買い物をしたのかということを時系列で把握することも可能になる。これは言ってみれば、インターネット・マーケティングにおける顧客属性と行動ターゲティング履歴を同時に入手できるのと同じことである。
(2)この顧客属性や履歴に連動して、ターゲティング広告を的確に行える。
これまでのようにマス媒体に広告を出すだけでなく、ポイントプログラムに加入しているロイヤリティ(忠誠心)の高い会員向けの会報やメールマガジンなどを経由して情報を提供することで、ピンポイントの広告投下が可能になる。
さらにそのようにして投下した広告に対しては、効果測定も簡単だ。
 このようにしてメリットを挙げてみると、ひとつ気づくことがある——これらのメリットは、テレビCMや新聞広告と比較したインターネットマーケティングのメリットとまったく同じであるということだ。
つまり電子マネーやポイントプログラムは、「仮想」通貨という漢字熟語が当てられているのもわかるとおり、リアルの経済の世界にインターネット的なシステムを持ち込んでしまおうという発想なのである。

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