乱立するポイントプログラムの有効利用

2013年11月29日

ポイント交換サービスが現金を駆逐する

 「ポイ探」というサービスがある。正式名称は「ポイント探検倶楽部」。電子マネーやポイントプログラムを、相互にどう交換すれば得するのかを計算し、サイト上に表示してくれるサービスである。

 ポイ探を提供している同名の会社、「株式会社ポイ探」の代表取締役を務める佐藤温さんは、もともと証券マンを経て、日経ホーム出版社で「日経トレンディ」「日経マネー」の編集記者を長く務めていたという異色の経験の持ち主だ。
記者時代、ポイント同士をどう交換すれば効率よく使えるのかということに興味を持ち、二〇〇六年に主要なポイントプログラムの相関図をまとめた日本初の「ポイント交換マップ」を作成。これをきっかけにインターネットを使ったポイント交換案内サービスというアイデアを考え、退職を決意。2006年4月、ポイ探を仲間たちとスタートした。

 電子マネーやポイントプログラムは、もの凄い勢いで乱立し、急速に私たちの社会に入り込んできている。電子マネーで言えば、ソニー系のビットワレットが運営するエディ(Edy)が利用店舗数最大で、特に大手コンビニチェーンが充実。am/pmとファミリーマート、ローソン、サークルK、サンクスの全店で利用できる。
このエディに続くのがJR東日本のスイカ(Suica)と首都圏私鉄各社で共同発行しているパスモ(PASMO)。相互利用を実現しており、バスや鉄道、地下鉄などの利用には欠かせない。

 さらに後発として、セブン&アイ・ホールディングスがセブンイレブン全店で使えるナナコ(nanaco)を発行し、今後イトーヨーカドーやデニーズなどでも使えるようになる計画を進めている。
さらにイオンはワオン(WAON)を発行し、関東一都六県を中心とするジャスコ、サティなどで利用できる。

 ポイントプログラムはさらに複雑だ。
 おそらく日本国内で提供されているポイントの数は、数百を下らない。
矢野経済研究所が2007年5月に発表した「主要企業のポイントプログラム動向に関する調査結果 2007年版」によれば、小売や飲食、レジャーなどの主要企業計534社の中で、ポイントプログラムを自社提供していた企業は52・8パーセントに上っていたという。
また野村総合研究所によると、日本国内のポイント発行総額は4500億円以上で、300兆円を超す個人消費全体の15%程度がポイント付与の対象になっている計算になるという。いまや個人の消費のかなりの部分が、ポイントプログラムに吸い込まれつつあるのだ。

 このような状況の中で、人々がいちばん悩むのが「どうやって自分が今持っているポイントを有効利用できるだろうか?」という難問だ。
 たとえば、クレジットカードや自宅の近所のスーパー、会社のそばのドラッグストアなどに分散して貯まっているポイントを、まとめて航空会社のマイレージに交換し、今度の夏休みに国内旅行ぐらいできないだろうか?
 いま持っているこのポイントを、もっともお得な交換レートで商品や現金に換える方法はないだろうか?
 ポイ探はこのあたりの悩みにうまく応えたサービスで、ウェブサイト上でポイント同士を交換する際の交換ルートの検索と、その際の交換レート、交換にかかる日数を知ることができる。
たとえばクレジットカードのDCカードのポイントを全日空のANAマイレージクラブに交換しようと思っても、両者は提携していないため、直接交換することはできない。けれども、DCカードとツタヤ、ツタヤとANAはそれぞれ提携している。だからDCカード→ツタヤ→ANAと順に交換していけば、DCカードのポイントをANAのマイレージに変更することができる。
数十のポイント、マイレージ、電子マネーなどが乱立している現状でこの相関関係は複雑怪奇だが、ポイ探のようなアグリゲーションサービスを使えば、一発で検索できるというわけだ。

 この消費者の新たなニーズをうまく受け止め、ポイ探は月間ページビュー約69万、1日あたりのユニークユーザー数も3800人に達する人気サイトに成長している。
 このような仮想通貨社会は、ネット消費の世界をどのように変えていくのだろうか?
 佐藤さんは言う。「ポイントや電子マネーを使いこなせる人は、ポイントによる値引きも含め、お得な価格で商品やサービスを利用したり、ためたポイントで毎年タダで海外旅行に行けたりします。しかし使いこなせないと、日常品ですら割高な価格で購入することになり、ポイントで何かの特典を受けることもできません。ポイント市場が成長するにつれ、今後ポイントを利用している人としていない人の間の格差は徐々に大きくなっていくのではないでしょうか」

 逆にポイントを使いこなす人にとっては、「ポイントがイコールお金である」という意識がさらに強くなっていく。
Edy(エディ)やSUICA(スイカ)、PASMO(パスモ)などの電子マネーといずれ融合し、仮想通貨として社会の中での存在感が高まっていく可能性がある。
 この先には、さらにどんな消費世界が待っているのだろうか。佐藤さんは、先に紹介した格差拡大の問題に加えて、次の3つのポイントを挙げて見せた。

 まず第1に、サイフの中の現金が減る。
銀行からATMなどで引き出すのに手数料がかかり、ポイントもつかない現金よりも、クレジットでチャージしてポイントが付き、さらに使ってポイントが付く電子マネーやクレジットカードを使う方が経済的なメリットははるかに大きい。
毎日生活しているだけで、知らないうちにポイントが貯まり、ポイ探のようなサービスを利用すれば、自分の使いたい店やサイトにうまくそのマネーを誘導していくことができる。そうなれば現金の利用頻度は、自然と下がっていく可能性がある。

 「実際、私が現金を使うのは、割り勘で食事をするときくらいですね。銀行のATMでお金を引き出す機会も月1回くらいしかありません」と佐藤さんは話すのだった。

 第2に、お金をよけいに使うようになる。電子マネーにチャージしてしまうと、サイフの紐は自然とゆるくなり、コンビニなどでもついつい使ってしまいやすくなる。
 たとえば首都圏では私鉄、地下鉄、バスで利用できる電子マネーPASMOが発売されて以来、「運賃を前よりも気にしなくなってしまった」と感じる人が少なくない。
たとえば東京メトロと都営地下鉄や私鉄を乗り継げば、単一の路線に乗る場合の1・5〜2倍の料金がかかる。券売機で現金で支払えばその金額の高さが気になるが、PASMOを使って自動改札で「ピッ」と通ってしまうと、なぜか料金はあまり気にならない。硬貨の重みを感じないからかもしれない。
また電子マネーの場合、「ポイントが付くから、少しぐらいよけいに使っても」と自分を正当化できるという心理的要因もあるようだ。

 第3に、電子マネーが普及すると、「釣り銭」という概念が消滅する。
そうなると「500円」や「100円」という切りの良いワンコイン価格は存在価値がなくなる。佐藤さんは「インパクトがあればどんな数字でもいいわけで、111円とか777年などという値付けが増えるかもしれないですね」と話す。

 仮想通貨が100%普及した社会というのは、いまの私たちには想像もつかないような社会になっていく可能性がある。おそらくそこには、いままでにない新たな消費者の知恵、新たなサービスの利用の仕方、新たなアイデア、さらには新たな犯罪や悪知恵までもが、さまざまに噴出してきているだろう。その時代に消費者として生きていくためには、今よりももっともっと消費者としての知恵が必要になってくるはずだ。

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