分水嶺にあるネットビジネス
モバイルコンテンツ審査・運用監視機構。SNS、ブログ、掲示板、動画共有サービスなどのコミュニティサイトについて、学識経験者による審査を行う。
子どもを「情報公害」から守るという観点から見れば、現在、ネットビジネスは分水嶺にあると言える。
すなわち、子どもの健全な成長を守ることを前提として成熟していくのか、弊害を止められずに「情報公害」垂れ流し産業となってしまうかが、問われている。
2007年以降、多くのネット企業が、子どもの健全育成への貢献に向けて、多大なる努力を重ねている。特に、2008年にモバイルコンテンツ審査・運用監視機構(EMA)が発足したり、2009年に安心ネットづくり促進協議会が発足したりすることに象徴されるように、多様な立場の関係者が連携・協力して、健全なネット環境づくりに取り組み始めたことの意義は大きい。
コミュニティサイトに関しては、EMAが運用管理体制の基準をつくり、EMAに認定されたサイトが毎日多くの発言を削除し、不適切な利用者を適切に排除している。安心ネットづくり促進協議会においては関係者が一堂に会して情報を出し合い、コミュニティサイトを介した犯罪の状況を分析し、可能な対策を協議している。
だが、こうした取り組みも、万全ではない。特に、以下の課題がある。
第一に、サイトを利用者の年齢確認を徹底するしくみが確立しておらず、子どもが年齢を偽って利用した結果、トラブルに遭うことが避けられないことである。
大人向けのネット端末を子どもが使うことを禁止し、子ども向けの端末からのサイトアクセスには子ども向けであることを示す信号が送られるようにする等、抜本的な対策を検討する必要がある。
年齢確認を徹底することができれば、フィルタリング加入を徹底させることも可能であり、子どもが悪質なサイトにアクセスすることも防げる。
第二に、子どもの生活習慣を乱さないための取り組みが遅れていることである。
携帯電話によるネットアクセスの時間制限はNTTドコモが提供しているものの、通話やメールを含めた時間制限を提供している携帯電話事業者はない。サイト側でも、子どもが長時間、夜遅くまでサイトを利用することを抑制する策をとっているところはないようである。
保護者の希望に応じて、トータルの利用時間や利用時間帯を制限することができるようになるとよい。
石川県が、小中学生に原則として携帯電話を持たせない条例を設けたことをはじめ、各地で子どもの携帯電話利用を規制する方向での議論がなされている。ネット企業には、「情報公害」から子どもを守ることにとどまらず、ネットを利用してもらうことによって次世代をどのように育成しようとしているのかのビジョンのもとでビジネスを進めてほしい。
参考
藤川大祐『ケータイ世界の子どもたち』講談社現代新書
藤川大祐『本当に怖い「ケータイ依存」から我が子を救う「親と子のルール」』主婦の友社