不妊症でも自然妊娠で元気な赤ちゃんを授かる方法

問題事例2 不妊(東洋医学)篇

中国伝統医学を否定しながら 東洋医学の理論を用いた「パラドックス不妊改善術」

検証した情報商材

販売モール 株式会社インフォトップ(代表取締役 田中保彦)
制作業者 株式会社インベサイド(代表取締役 小島礼大)
筆者 金龍
所在地 東京都千代田区神田須田町2-2-5
須田町藤和ビル5F
電話 03-3256-3114
E-Mail jimukyoku@baby-mati.com
価格 ¥27,800
URL http://www.baby-mati.com/top.html
情報商材
自称『不妊改善療法士の金龍』という人物が30年かけて自然妊娠の法則を発見し、30年間の不妊治療専門施術を通して108人を出産させた。

販売サイトにモノ申す!

鍼灸師よりも優先させたかった「謎の資格」

「これ、どんな資格なんですか?」

 鍼灸の世界に入って38年。不妊治療にも数多く携わり、現在は東邦大学医学部附属大森病院の東洋医学科鍼灸部で主任を務める鍼灸師の土屋先生も、やはりここに目がいったようだ。

『不妊改善療法士』。

 販売サイト内にある、今回の商材執筆者とされる金龍という人物の画像横にある短い挨拶。その中に出てくる肩書きである。筆者も初めて目にしたときは、思わずパソコン画面に乗り出してしまった。何だ、これは……?
「今ここで、この資格がどういうものか、いや、実際にこうした資格があるかどうかを言明することはできません。ですが、少なくとも現在、医学関係の国家資格にないということは断言できます」(土屋先生)
後日、資格関係の学校に勤める筆者の知人にも尋ねたところ、民間資格も含め「そんな名称は聞いたことがない」と一蹴された。
「まぁ、この資格もそうですが、商材の中味がほぼツボのことだけなのに、販売サイトはまだしも、商材本体にすら、鍼灸師という表記がありませんでしたよね」(土屋先生)

 今回の情報商材は、明らかにツボをメインとした内容展開。であれば、怪しげな肩書き以外に、断然信憑性の増す鍼灸師の肩書きを、なぜ執筆者は入れなかったのか?
 ウソもホントもごちゃ混ぜの紙くずの中でも、そこだけは正直に資格を持っていないことを明示したかったのか?

 というよりも、あらゆる医学的な不妊治療(もちろん鍼灸も含む)でも妊娠できず、もはや医学的という言葉に嫌悪すら覚えるほど追い詰められた人たちなら、平常時は明らかに避けて通るような肩書きにこそ、これまでとは違う、新たな希望を見出すのでは…

『不妊改善療法士』という肩書きが放つのは、そんな狡猾な臭いである。

商品(情報商材)を医学的に検証してみた

 全146ページの情報商材、その内訳は以下のとおり。

  • まえがき17P(具体的な対策0P)
  • 着床率UP法66P(具体的な対策 呼吸法5P ツボ刺激法ほか56P)
  • 生活習慣改善32P(具体的な対策は、ストレス解消法1P、呼吸法2P、食生活のアドバイス1/2P、環境ホルモン対策2P、栄養面アドバイス4P 計9.5P)
  • 男性の不妊改善に4P(具体的な対策は61P ※この数字の詳細は以下を参照)
  • まとめ1P(具体的な対策は0P)
  • 無料特典22P(具体的な対策は0P 生理痛、便秘、肥満の解消法が書かれているのみ)
  • あとがき4P(具体的な対策は0P)

 上記3、4の具体的な対策以外のページでは、不妊の原因となる生活習慣・体質(ストレス、冷え、環境ホルモン、男性の不妊の原因と思われる生活習慣など)を説明しているのみ。また、3の対策についても仮説の域を出ない単なる持論の展開であり、4の男性不妊改善では『男性も女性と同じメニューで、ツボ押しを行ってください。』という、臨床医学的に見て、『何故!?」と突っ込まざるを得ない一文が(このため、上記では2の着床率UP法のページ数を、やむなく算入した)。6の無料特典に至っては、仮説の域を出ない持論のストレッチ、マッサージなどである上、不妊に関することですらない。 以上の点を踏まえると、この商材は2の『着床率UP法』が内容のほぼ全てであり、その内容から東洋医学、特に鍼灸学に基づいて検証・解析を進めていくこととする。

紙面に舞い踊る「東洋医学風味なフレーズ」

 18ページから始まる第1章で、まさにこの商材の目玉『着床率UP法』の内容が紹介されている。
 それが『呼吸を整えてから、足のツボを刺激する』。特に要約はしていない。『着床率UP法 基本のステップ』(原文まま)という見出しの下に書かれた行うべき内容はこの2つのみ。

 以降は執筆者の造語と思われる表現のオンパレードだ。『つぼを押し流す』『滞った気の流れを活発にします』『経絡とは気や血液が全身を流れであり』(すべて原文まま)など、土屋先生、筆者ともに初めて見る文言が続く。そんな中、『経絡にあるつぼを順番につぼ刺激する=経絡に沿って流すこと』という内容の文章には、さすがに言及せざるをえない。

「あまりにも言葉が足りないですね。この文章の前半は、“肝経、肺経など特定の経絡のツボを、気血の流れる方向に沿って順番に刺激する”という解釈をしてあげない限り、順番の意味が全くわかりません。また、そうすることで、その経絡に沿って気血が流れるようにはなるかもしれませんが、経絡に沿って流す方法は順番にツボを刺激するだけとは限らない。これは臨床的な見地から明らかです。つまり逆は成り立ちませんから、=(イコール)で結ぶのは明らかに間違っています」(土屋先生)

伝統医学を根本から解体する「仮説」

「ちょっ、これは、ひどいなぁ」
38ページから始まる『実践!』と題された各経の経絡図を読み進めていた途中、土屋先生があきれ顔でこう指摘したのは三陰交というツボについて。このツボは、不妊や生理痛の治療などにも頻用され、東洋医学的には「女性の万能穴」として知られる名穴。

「三陰交は脾経のツボ。なのに、肝経にも腎経にも三陰交があると書かれてますよ! このツボの名前の由来は3つの“陰の経絡”である少陰腎経、蕨陰肝経、太陰脾経が交わる場所にあることからといわれますが、あくまでも属する経絡は脾経です」(土屋先生)

 ツボの位置であれば、数箇所程度だが、流派などによって異なるケースもなくはない。が、 「およそツボを用いた治療に携わっている人間であれば、この表記は……三陰交が脾経のツボというのは本家中国の各学会はもちろん、WHOの国際標準にも明記されている、いわば東洋医学の普遍的な原則です」(土屋先生)

 また、22ページにあった『経絡に沿ってたくさんのつぼがあります』(原文まま)という表記。この中で、土屋先生、筆者ともに、微妙だが奇妙な違和感を覚えたのは『沿って』という言葉だ。
 取材終了後、さっそくネットで意味を調べたところ、「主となるものから離れないようにする。長い線状のもののわきを進む。そばを行く(提供:「大辞林 第二版」)」とある。
 すぐさま電話をかけ、「予感的中でしたよ!」と告げる筆者に、受話器の向こう側で土屋先生はこう話してくれた。
「そうですね。経穴、いわゆるツボは、奇穴など特別な場合を除けば、基本的に経絡上にあるというのは、鍼灸学における大原則の1つですからね」

さて、仮に、商材内における上記の表記が『金龍氏の仮説』であったとしよう。そして、それが正しいとするならば、これまで数千年にわたって築き上げられてきたツボ治療に関する鍼灸学という医学体系は、いともたやすく崩壊すると言って過言ではない。

 だが、それほど根幹的な点を覆す仮説を立てたにしては、あまりにも異常である。

 この商材では、ツボ・経絡の位置および名称や刺激の仕方ほか、上記の2点以外は、ほぼ現在の鍼灸学を踏襲しようとする内容となっている点が、だ。

“自らの仮説で崩壊させたはずの医学体系を、ほぼ引用しながら作った仮説”
矛盾という言葉がこれほど似合う商材もそうはないだろう。

販売サイトの表記との整合性を検証すると…

『妊娠したいのならまず、不妊治療の通院を今すぐ止めてください』

該当するのは88ページのタイトル『不妊のストレス』内にある『不妊治療に通うことがプレッシャー、ストレスになる』という内容の表記に続く、次の一文。
『実は・・・不妊治療をやめた途端に、妊娠するケースってとっても多いんです。』(原文まま)という医学的根拠のない単なる持論。

『一日「9分」で自然妊娠する方法とは!?』

57ページの『時間がとれない場合の最短コース』を指しているようだが、紹介されているツボなどの場所には、刺激の仕方と回数しか(うちツボ7箇所は回数すら)示されておらず、9分の根拠は不明。臨床医学的根拠もなし。

『たった13秒で妊娠体質になる!?』

71ページの『さらに時間のない場合の13秒コース』を指しているようだが、紹介されている腎経の5つのツボと脾経の三陰交を刺激するだけで13秒を要しているため、33ページで、つぼ刺激の前後に行うよう指示のある呼吸法の時間(筆者が実際に行ったところでは4分近くを要した)が無視されている。臨床医学的な根拠もない。

『不妊の最大の敵。添加物をキレイさっぱりぜ〜んぶ出してしまう方法とは!?』
『“89.2%”の女性が間違っている、不妊を引き起こす大きな逆効果とは!?』
『実を言うと、不妊原因の57%は男性にあります!』
『47歳の閉経寸前の女性でさえ「53日」で自然妊娠する方法とは!?』

以上該当表記なし。

『おなかの赤ちゃんがスクスク育つ9ステップとは!?』

73ページ『おなかの赤ちゃんがグングン育つ方法とは!?』を指しているようだが、刺激するツボなどの場所は10箇所あり、臨床医学的根拠もない。

『あなたの足の小指は、少し内側に曲がっていませんか? だとしたら、“今すぐ”●●の方法を実行してください! 何故ならそれは、一分一秒を争う不妊のサインだからです』

50ページの『膀胱経のツボを押す』という内容の文中に、『脚の小指が内側に曲がっている人は、子宮が冷えている可能性が高いです』(原文まま)との表記はある。
しかし、販売サイトの●●に“ツボ”の文字を入れると、“ツボの方法を実行する”という東洋医学的どころか、国語の文章表現的に違和感のあるフレーズが完成する。
この点を差し引いても『小指が内側に曲がっている人は子宮が冷えている可能性が高い』『子宮の冷えが一分一秒を争う不妊のサイン』はいずれも医学的な根拠のない仮説・持論に過ぎない。

『【流産】【死産】の原因! テレビで流行の間違った不妊改善マッサージとは!?』

35ページに『雑誌やTVなどの方法はツボ押しやマッサージの期間を指定していないものが多く』(原文まま)という意味不明な記述はあるが、明確な該当表記はなし。

『“安全なお皿”を見分け、恐るべきスピードで増殖し続ける“卵巣の悪魔”を消滅させる方法とは・・・!?』

該当するのは105ページの『プラスチック容器をやめて、なるべくガラス製品や陶磁器を利用する』『紙コップや紙皿はなるべく避ける』(本文まま)と106ページの『食物繊維がダイオキシンを排泄。葉緑素と組み合わせるとさらに効果アップ』だが、すべて臨床医学的な根拠はない。

『あなたの子宮内膜が“ふっかふかのベッド”になる唯一の法則とは!?』

111ページで、医学的根拠のない、『子宮内膜を厚くする栄養成分』が紹介されている。

『不妊ストレスがドーーン!と吹き飛ぶ、笑顔になるストレス解消方法とは!?』

明確な該当表記はない。強いてあげれば90ページの、臨床医学的に根拠のない『エッセンシャルオイルを用いたアロマ呼吸法』のことか?

総論

 この販売サイトおよび商材は、

『不妊改善療法士』という、未知なる治療への期待を抱かせる肩書きを使い、医学的な治療に挫折した、弱い人たちの心に付け込み、

東洋医学的なスタンスを取りながら、その中で東洋医学と真っ向から対立する仮説を唱えるという、支離滅裂な内容を目玉とした内容

 と結論づけられる。

検証に協力頂いた専門医
土屋 喬
土屋 喬 先生

鍼灸師
’63年玉川大学文学部教育学科入学。’78年呉竹鍼灸専門学校卒後、国立東静病院漢方研究会に所属。東洋医学を研究研鑽する。ツチヤ鍼療所を開業。所長を務めながら、東邦大学医療センター大森病院東洋医学科鍼灸外来を兼務。日本東洋医学会静岡県部会幹事。伊豆漢方研究会事務局長。主な著書などに「未病息災」(源草社)「一病息災」(源草社)「40代からの症状別漢方服用辞典」(同文書院)

土屋先生が語る「東洋医学的治療の本質とは」

 鍼灸を含め東洋医学では、症状の改善には個々人の「証(しょう)※」を最重視します。同じ症状でも証が違えば治療法も異なります。これは全ての症状について同様です。特に、不妊も含めた難治性の疾患では証をより細分化して原因を追究しますから、患者さんの数だけ治療法があると言ってよく、鍼灸治療なら、患者さんごとの配穴(治療に用いるツボ)も刺激の仕方も千差万別です。こうした症状ではなく人を診る「オーダーメイドな治療スタイル」こそが、東洋医学の本質だといえます。

※証(しょう):性格や体質、体調ほか精神・肉体の両面から得られるさまざまな情報に基づき、その人の今の状態を体系付ける東洋医学的な分類のこと。簡単にいえば、その人の東洋医学的分類におけるタイプを示すもの。

 

三浦 於菟
東邦大学大森病院東洋医学科教授

医学博士
’73年東邦大学医学部卒後、東邦大学医学部第二内科、国立東静病院勤務を経て、’84年に日本政府派遣中国政府奨学金留学生として中華人民共和国南京中医学院へ留学。’87年には中華民国中国医薬学院へ留学。帰国後、日本医科大学東洋医学科助教授などを経て、現在、東邦大学大森病院東洋医学科教授。主な著書などに「未病息災―いま、たおやかに生きるコツ」(健康双書)、「東洋医学を知っていますか」(新潮選書)。

取材・文 岩井浩(医療ジャーナリスト)

<本サイトにおける用語について>

情報商材(情報教材)は、その名称がマスコミ報道や国民生活センターなどの注意喚起によって詐欺的な問題商法として周知されたのを受け、関係事業者はダウンロード販売、インターネット出版、オンライン出版、オンライン教材、オンライン通販、電子書籍、電子出版、ebook(イーブック)、情報販売、情報起業 等の呼称に変更していますが、当サイトでは、用語を「情報商材」に統一いたします。

また、情報商材を制作している者は、販売者でもありますが、情報商材販売モールが実際の販売実務の中心を担っているため、本サイトでは、敢えて販売者とはせず、情報商材制作業者と表記いたしました。また、情報商材業界では、情報商材制作業者のことを「インフォプレナー」と通称しますが、一般的ではないので、本サイトでは用語として使用していません。

※誇大広告や虚偽広告に基づいて購入した情報商材の解約・申込み取消し・返品・返金の要求は情報商材制作業者のみならず、情報商材販売モールに対して行うことが有効と考えられます。クレジットカードで購入した場合は、カード裏面に記載のカード会社の電話番号へ連絡し、騙された情報商材の代金のみの引き落としをしないよう要請し、国民生活センター  (03-3446-0999)または全国の消費生活センターへ相談し、相談員の指示に従って被害回復を図ってください。

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