アメリカでの民事訴訟には、デジタル・フォレンジックが必要不可欠である。第5回目の今日は、民事事件におけるデジタル・フォレンジックの活用を検証した。
── 民事事件におけるデジタル・フォレンジックの活用にはどういったものがあるのでしょうか。
日本では、デジタル証拠は準文書ということで、証拠にはなるんですけれども、基本的に紙ベースなんですね。刑事事件のようにデジタル証拠の隠蔽などがある場合は別ですが、日本の民事裁判では紙ベースで進行するため、デジタル・フォレンジックが応用されているケースはこれまでほとんどありません。
しかし、アメリカでは、e-Discovery(電子証拠開示手続き)と呼ばれる制度が導入されています。2006年12月にアメリカ合衆国連邦民事訴訟規則が改正されて、民事裁判におけるデジタル証拠の開示が法制度として認められました。日本とアメリカの間における国際民事訴訟では、このe-Discoveryが非常に重要になってきます。
e-Discoveryでは、訴訟相手から請求があった場合に、裁判所からこの開示命令が発せられると、デジタル証拠を開示することが義務付けられます。そのためには、デジタル証拠の保全が欠かせませんから、デジタル・フォレンジックが必要になってくる。日頃からログを保存・管理するなどの備えをしておかないと、裁判で不利になることも十分に考えられます。
e-Discoveryのもとでも、法律的にどういうデジタル証拠を裁判所に出すのかという点については、弁護士の仕事になりますが、その弁護士がデジタル証拠を取り扱えるようにする準備のために、技術支援をする専門家が別に必要なんですね。そうしたe-Discovery関連の訴訟支援ビジネスはリーガルテクノロジーと呼ばれ、デジタル・フォレンジック関連ビジネスとしてすでに非常に大きなマーケットとなっています。
■e-Discoveryを巡る日米の司法ギャップ
── IT業界ではない企業の場合には、自前でデジタル・フォレンジックの技術を用いることは困難かと思います。企業が、e-Discoveryなどに対応するためには、どういったことをすればいいのでしょうか。
日本にも、デジタル・フォレンジックをサービスとして提供している会社がいくつかあります。まだ数社しかありませんが、その1つに株式会社UBIC(東京都港区・守本正宏社長・東証マザーズ2158)という会社があり、e-Discoveryにも対応しています。
デジタル・フォレンジックで使う解析ソフトは、アメリカでは当然、1バイトにしか対応していません。すると問題なのは、日本の本社とアメリカの現地法人との間で日本語でやり取りしたような文書というのは2バイト文書ですから、それを解析してアメリカ人に見せてもわからないわけです。UBICではそういった細かいところまで、訴訟支援を技術的に対応しています。
── 日本でe-Discoveryのような制度の導入が進まない理由は何なのでしょうか。
さきほども少し言いましたけれども、日本の裁判は書面主義ですからデジタル証拠の出る幕がないんです。アメリカでは、デジタル証拠を開示する場合、データそのものが証拠として提出されるんですよ。
本当は、山のような書類を作って持っていくよりも、デジタルデータで提出した方がよっぽどいいですよね。アメリカではそれが認められるんですが、日本ではまだそこまでいっていません。
── 日本でもIT化ということが言われてきましたし、デジタル利用はかなり普及していますが、公の文書という点では、あまりIT化が進んでいないというのが実状というわけでしょうか。
法務省民事局によるインターネット番組『ホゥ!ティービー』より。電子認証制度を目下推進中の同省だが、浸透度はいまひとつ
そういっていいでしょう。日本で役所に必要な書類を出す場合に、デジタルデータでいいというケースはほとんどありませんよね。確定申告や入札などで、やっと電子認証を前提にして、電子申請を取り入れていますが、今一つ普及していません。
地方自治体もそう。インターネットを使ってさまざまな入札や申請ができるシステムを導入しようとしても、ほとんどの人が利用しません。
結局、維持費だけでも膨大な金がかかって無駄になるからやめよう、となってしまう。役所の側にも問題はありますが、利用者である国民の側にも、まだまだ紙文化から抜けきれないところがあります。そういう状況では、IT化にはしばらく時間がかかるでしょうね。