デジタル・フォレンジックから生まれるビジネスチャンスの可能性

2014年6月10日

最終回の今日は、デジタル・フォレンジックが現在、どのような関連ビジネスを生んでいるのか。また、日本でビジネスチャンスを阻んでいる壁は何なのかを追った。

── これまで、デジタル・フォレンジックの刑事、民事、企業内における活用についてお話を聞いてきました。最後に、ビジネスチャンスとしてのデジタル・フォレンジックの可能性についてお聞きしたいと思います。

 率直に申し上げると、今のところ、ある程度の市場規模が考えられる分野としては、アメリカのe-Discovery関連ビジネスということになると思います。

── となると、日本ではe-Discoveryが導入されていませんから、ビジネスチャンスという意味では、あまり希望がもてないということになるのでしょうか。デジタル証拠が今後検証されなければならない場面が日本においても増えていくと思うのですが、それをアメリカと同じようにビジネスチャンスにできないというのは、書面主義の厚い壁を感じますね。

 壁は厚いですね。日本は、やっぱりまだ紙文化の社会なんだと思います。たとえば、稟議決済をあげる時にも、デジタルデータだけで処理する組織があるでしょうか。一部にはやってる民間や組織もあるかもしれませんが、まだまだ紙中心ですから、書面主義という基本構造は変わりませんね。

── 日本が書面主義にこだわるのはどうしてなんでしょうか。

 なぜ紙なのか、なぜデジタルデータが普及しないのか。一言でいうと、要するにデジタルデータは、改ざんが容易だということではないでしょうか。
 紙だったら、書いてあるものを消したり、上から別の紙を貼ってコピーしたとしても、改ざんしたということがわかります。だから、日本では紙が中心なんだといえるでしょう。

 それは、写真でも同じことなんです。警察が犯罪捜査に使っている写真がありますけれども、あれも今までは証拠として刑事裁判で使うときにはフィルムカメラを使わなければいけなかった。なぜかというと、フィルムカメラの場合には、ネガがあるからなんです。撮影したネガフィルムを現像するプロセスで、何かしら改ざんするというのは、相当の技術がないとできない。

 実際の刑事裁判には、写真としてプリントされたものが証拠として提出されるわけですが、それが改ざんされているかどうかは、元のネガを見ればわかるわけです。だから、警察では、刑事裁判の証拠となるものはフィルムカメラで撮ってきたんです。これだけデジタルカメラが普及しているにもかかわらず、デジタルカメラというのは原則禁止だったんです。

■改ざん不可のデジタル機器の登場が裁判を変えた

上書き不可能な記憶媒体のみに接続可能なデジカメが開発され、警察庁は2009年度予算で45億円を計上し、全国の警察署および警察本部の鑑識課に7000台を配備

 ところが、2008年に、改ざんができないデジタルカメラが開発されました。正確には、データが書き込まれると同時にロックされて、改ざんができないメモリーカードです。このメモリーカード専用のデジタルカメラが発売されたんですね。

 要するに、不可逆的、一方通行的な、改ざんできないデジタルカメラが誕生したわけです。これは画期的なことでした。

── そういうデジタルカメラが出てきたとなると、日本でもいよいよ紙中心のアナログ至上主義が変化していきそうですね。

 海上保安庁では、2009年8月から、改ざんできないデジタルカメラで撮影した写真を証拠として使うようになっています。フィルムカメラと違って現像時間が短縮できますから、証拠提出までのスピードも上がります。警察庁でも、2009年度末までには、これまで使っていたフィルムカメラを、改ざんできないデジタルカメラに切り替えるようです。

── そうした動きは、デジタル・フォレンジックの分野にも影響を与えそうですか。

 デジタル・フォレンジックは、デジタルデータの同一性と真正性を確保するという前提で、情報が改ざんされたとき、それ以前の状態へとトレースしていって、証拠保全するという技術です。
しかし、改ざんできないデジタル機器が普及してくるとなると、デジタル・フォレンジックの果たす役割は変化することにはなるでしょうね。その意味では、改ざんできないデジタルカメラというのは、興味深いですね。

── 日本でデジタル証拠が本格的に活用される日は来るのでしょうか。

 本当の意味でのIT化が進んでいけば、日本の書面主義も変わってくるでしょう。今のところは、そういうところまで進んでいないというのが実状です。ただ、将来はおそらく何らかの形で利用されるようになってくると思います。それまでにデジタル・フォレンジックのことを知り、先んじておくのも、ビジネスチャンスにつながるのではないでしょうか。

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