サイバー犯罪関連法整備に足踏みする日本と、 国際化の一途を辿る組織犯罪ネットワーク

2014年4月29日

技術の進展とともにその概念も拡大してきたサイバー犯罪。第3回目の今日は、サイバー犯罪に関する国際的課題と、日本における関連法整備の遅れについて考えてみる。

── デジタル・フォレンジック以前の問題として、サイバー犯罪そのものについてもお聞きしたいと思います。そもそも、サイバー犯罪とは、どういう概念なのでしょうか。

 サイバー犯罪というのは、そんなに古い言葉ではないんです。もともと、1980年代にはコンピュータ犯罪という言葉が使われていました。当時は今ほどネットワークが普及してませんから、どちらかというと、スタンドアローンのコンピュータに関する犯罪が想定されていた。日本でも1987年に、コンピュータ犯罪等に関する刑法の一部改正が成立しています。

 その後、ネットワークが普及していくにつれて、国際犯罪やテロの脅威が意識されるようになります。1997年にアメリカ・デンバーで開かれたサミットでは、コミュニケの中で「コンピュータ技術及び電気通信技術を悪用した犯罪」として、ハイテク犯罪という言葉が使われました。2000年前後には、コンピュータ犯罪にかわって、ハイテク犯罪という言葉が世界的に定着します。

 サイバー犯罪という言葉が使われるようになるのは、2001年にヨーロッパ評議会でサイバー犯罪に関する条約(サイバー犯罪条約)が採択されたことがきっかけです。
サイバー犯罪条約の前文には、「コンピュータ・システム、コンピュータ・ネットワーク及びコンピュータ・データの秘密性、完全性及び利用可能性に対して向けられた行為」が、サイバー犯罪として定義されています。つまり、秘密にしておきたいものがあって、それが改変されないような状態で、いつでも使えるようにしておかなければならない。
「秘密性」、「完全性」、「利用可能性」という情報技術の3要素を守り、安全、安心なサイバー世界をつくるのが、サイバー犯罪条約の目的です。

 要するにどういうことかと言うと、コンピュータ犯罪と言われた時代には、個々のコンピュータを攻撃するものを犯罪として考えた。その後、ネットワークが普及することによって、そのネットワークを利用した犯罪行為をハイテク犯罪と呼ぶようになったんです。
 それが今度、さらにネットワークが当たり前の時代になってきた時に、コンピュータやネットワークというよりも、そういうコンピュータやネットワークを利用した社会そのものに対する犯罪としてとらえられるようになってきた。サイバー犯罪という言葉には、そういう意味合いが込められています。

 日本でも、2004年にサイバー犯罪条約を批准していますが、まだ国内法の整備が進んでいません。結局、日本ではコンピュータ犯罪等に関する刑法の一部改正と、それを補うための不正アクセス行為の禁止等に関する法律(1999年)があるだけで、サイバー犯罪関連の法整備は遅れています。

■サイバー犯罪条約批准と共謀罪

── そういう限られた法律の中で、どういうサイバー犯罪が取り扱われているのでしょうか。

 コンピュータ犯罪等に関する刑法の一部改正では、極端なことを言えば、コンピュータを物理的に破壊するような犯罪をイメージしてるんです。ですから、そういう種類のコンピュータ犯罪は、刑法で取り扱うことができます。
 また、不正アクセスについては、不正アクセス行為の禁止等に関する法律で処罰することができます。
 それから、ネットワークという手段を利用した犯罪というものがあります。ネットワーク上での犯罪ではなく、パソコンや携帯電話などを通信手段として使っているだけで、内容は旧来型の犯罪というものです。ストーカーや脅迫、名誉毀損、わいせつ、詐欺なども、この種のネットワーク利用犯罪に該当します。ネットオークション詐欺も、基本的には旧来型の詐欺の延長です。
 日本では、いわゆるコンピュータ犯罪、不正アクセス、それからネットワーク利用犯罪というのが、サイバー犯罪の分類になります。

犯罪収益移転防止法などの組織犯罪事案で押収された携帯電話

── サイバー犯罪対策の法整備が遅れている現状では、国境を越えた組織犯罪に対する対処としては弱いのではないでしょうか。デジタル・フォレンジックの技術が今後発達するにしても、法整備の方も追い付いていかないといけませんね。

 そのとおりです。なぜ国内の法整備が進まないかというと、理由は簡単なんです。サイバー犯罪条約関連の国内法整備は、サイバー犯罪を組織犯罪と位置づけて、2000年に国連で採択された国際組織犯罪防止条約と、強制執行妨害に関する刑法改正とが、3点セットで国会に提出されているんです。中でも国際組織犯罪防止条約での共謀罪がネックになって、いまだに法律が通らない。

 サイバー犯罪条約では、ウイルス作成罪や児童ポルノ罪、デジタル証拠の収集手続やログの保存義務などについて国内法を制定することが求められています。
 できるだけ早急にサイバー犯罪対策立法が国会で制定されることを願っています。

カテゴリー:デジタル・フォレンジック |