ケーススタディ2 宇治市個人データ漏えい事件を考える

2014年3月25日

C社のアルバイト従業員Pによる不法行為

 宇治市の使用者責任を問うためには、C社アルバイト従業員Pによる宇治市民Xらに対する不法行為(民法709条)が成立しなければならない。
不法行為が成立するためには、①加害者の故意または過失による行為であること、②他人の権利又は法律上保護される利益が侵害されていること、③上記①の加害行為によって現に損害が発生していることが必要である。

 さて、この事件にあてはめてみると、①アルバイト従業員Pによる本件データの売却行為は、宇治市民Xらに対するPの「故意」による行為であることは明白である。
そして、②宇治市民Xらは、本件データの売却行為によって「プライバシー権」が侵害されている。
③本件データ中の宇治市民Xらの住民票データは、宇治市民Xらの「プライバシーに属する情報」として法的に保護されるべきものである以上、法律上、それは宇治市によって管理され、その適正な支配下に置かれているべきであるが、その支配下から流出し、名簿販売業者へ販売され、さらには不特定の者への販売の広告がインターネット上に掲載されたこと、また、宇治市がそれを名簿販売業者から回収したとはいっても、完全に回収されたものかどうかは不明であることからすると、本件データを流出させてこのような状態に置いたこと自体によって、宇治市民Xらの現実の損害が発生していたということになる。

 以上により、民法第709条に基づき、アルバイト従業員PのY市民Xらに対するプライバシー権侵害による不法行為責任が成立する。

プライバシーの権利とは何か?

 ちなみに「プライバシーの権利」について、本判決では次のように述べている。
「本件データに含まれる情報のうち、被控訴人(筆者注「宇治市民X」)らの氏名、性別、生年月日及び住所は、社会生活上、被控訴人(宇治市民X)らと関わりのある一定の範囲の者には既に了知され、これらの者により利用され得る情報ではあるけれども、本件データは、上記の情報のみならず、更に転入日、世帯主名及び世帯主との続柄も含み、これらの情報が世帯ごとに関連付けられ整理された一体としてのデータであり、被控訴人(宇治市民X)らの氏名、年齢、性別及び住所と各世帯主との家族構成までも整理された形態で明らかになる性質のものである。

 このような本件データの内容や性質にかんがみると、本件データに含まれる被控訴人(宇治市民X)らの個人情報は、明らかに私生活上の事柄を含むものであり、一般通常人の感受性を基準にしても公開を欲しないであろうと考えられる事柄であり、更にはいまだ一般の人に知られていない事柄であるといえる。

 したがって、上記の情報は、被控訴人(Y市民X)らのプライバシーに属する情報であり、それは権利として保護されるべきものであるということができる。」

 要するに、本判決では、「プライバシー権に属する情報」であることの要件として、次の3つを示していることがわかる。(最高裁は、もっと要件をゆるやかに解しているという見解がある。)
・私生活上の事柄を含むものであること
・一般通常人の感受性を基準にしても公開を欲しないであろうと考えられる事柄であること
・いまだ一般の人に知られていない事柄であること

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