EXPO70から上海万博へ―― 中国、新・富裕層たちのEコマース市場

北京五輪を終え上海万博を迎えようとする中華人民共和国は、未曾有の経済成長を遂げつつある。その強い流れは実店舗における景気感の高揚だけでなく、対消費者向けの電子商取引の分野でも高い成長を喚起している。中国における電子商取引はどのような発展の道を歩んできたのか、そして将来像はどのように描かれているのか。本稿では、2002年頃から現在に至るまで、中国の電子商取引市場の発展を支える人々に行ったインタビューと実態調査に基づき、新しい市場である電子商取引という場の可能性について考えてみたい。

岡田 仁志(おかだひとし)

国立情報学研究所情報社会相関研究系准教授。大阪大学大学院国際公共政策研究科博士(後期)課程修了。電子商取引における消費者行動を主な研究テーマとし、日本・中国・韓国でのアンケート調査などを行っている。『電子マネーがわかる』(2008年・日本経済新聞社刊)ほか著書多数。

スーパーカー世代

1923年以来、上海の発展を見守り続ける旧香港上海銀行上海支店

 上海に租界時代の面影を残す徐匯区には、今もフランス様式の洋館が建ち並ぶ。庭園をパーティ用に開放するその館は、流行に敏感な若者たちが夜ごと集まる音楽の社交場であった。
日本流にいえばユーロビートの流れる二階建ての店内では、アルマーニのスーツに身を包んだビジネスマンが仲間たちと酌み交わす。路上にはマゼラッティが無造作に止められている。
彼らは、新しい中国を牽引する八○后世代の成功者たちである。上海交通大学や北京の清華大学といった一流大学を卒業し、英語とパソコンを自在に操るエリートたちは、外資系企業に勤めて高い報酬と評価を得る。イタリア車を乗り回すのは特別な成功を収めた者で、起業して富を得た若き経営者である。
鄧小平による改革開放政策の進んだ1980年以降に生まれた彼らが、今中国の社会を大きく動かそうとしている。

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カテゴリー:Eコマース | 2014年3月15日