司法書士、かく戦えり1

2014年11月2日

インターネットを舞台に、次々に新しい手口の悪質商法が生まれ、消費者を狙っている。自治体の消費者窓口や弁護士などとともに、消費者被害の回復に頼もしい成果を上げている身近な実務法律家「司法書士」の存在をご存じか?情報商材、出会い系、オークション詐欺、パチンコ攻略法、内職商法など日々悪質業者と対峙してあの手この手を駆使して熱心に被害回復に取り組む彼らの活動と実績を、「市民に身近な゛くらしの法律家゛」を掲げる日本司法書士連合会に聞いてみた。

取材・文・撮影 ITビジネスジャーナル編集部

日本司法書士会連合会消費者問題対策部
消費者法制検討ワーキングチーム
座長 山田茂樹氏

平成12年に静岡県伊豆市で事務所開業。以来、地域の消費者被害救済の最前線に立ちつつ、日本司法書士会連合会消費者対策部内の中核メンバーとしての激務もこなす。著書に『司法書士という生き方—司法書士の事件現場から』、共著に『悪質商法被害救済の実務』。


ーーネットを使った悪質商法が急増している昨今ですが、消費者被害に対して司法書士はどのような関わり方ができるのでしょうか?

 司法書士の業務は多岐にわたりますが、司法書士法の規定のうち消費者問題に関連するのは、簡裁訴訟代理等関係業務や裁判事務並びにこれに関する相談です。消費者被害の平均額は約60万円で、ネットによるものだと数万〜数十万円程度のケースが多いですから、簡易裁判所での少額訴訟制度(請求額60万円以下の訴訟)の利用が効果的です。

ーー司法書士に依頼するメリットはなんでしょうか?

 例えば簡易裁判所は全国で438の地域にありますが、そのうち司法書士事務所が存在するのは433ヶ所に上ります。その意味において、司法書士は、全国各地にあまねく存在していると言えると思います。ですから、身近で気軽にコンタクトでき、被害救済のためのアプローチをとることができるというのが司法書士のメリットだと思います。消費者被害は発生から時間が経つほど回復が難しくなります。少額の被害であっても泣き寝入りせずに相談をしていただければと思います。

ーー司法書士は書類の代行作成が基本業務で、訴訟で依頼者の代理人になれません。ただ、請求額が140万円以下の訴訟の場合は、司法書士を代理人に立てることが出来ると聞いています。

 平成14年の司法書士法改正で、認定司法書士制度が導入されました。これは、法務大臣が指定する研修を修了し、法務大臣が実施する簡裁訴訟代理等能力認定考査で認定を受けた司法書士は、簡易裁判所での請求額140万円以下の訴訟や裁判外和解などを代理することができるのです。
 つまり、悪質業者に対して取りうるオプションの幅が広がるわけです。現在は、全司法書士の約6割がこの認定を受けています。ただ、被害額が3、400万円というケースでも、司法書士が相談を受けて訴状を作成するという形で被害救済に向けて対応することは可能ですから、一概に認定司法書士でなければ頼りにならないわけではありません。

依頼を受けた司法書士はこう動く

ーー消費者被害の回復を依頼された場合、司法書士としてどのような手段を取るのでしょうか。

 まず、明らかに犯罪性が強い場合の対処からお話します。架空請求や振り込め詐欺、競馬・パチンコ攻略情報詐欺などで、指定された口座にお金を振りこんでしまったという相談はいまだに多いです。これらは消費者被害というよりも犯罪とも考えられますから、内容証明を打つのではなく、振り込め詐欺救済法(犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法律)により、金融機関に口座の凍結要請を出すこともあります。この場合、金融機関側が要請を妥当と判断すれば、その口座は凍結され、預金保険機構のホームページ上で公告を経て被害者たちへ分配されることになります。

 先日私が担当したケースでは、依頼者は競馬攻略情報業者に80万円を金曜日に振りこんでしまい、その直後に相談に来られたんです。そこで月曜日に銀行へ凍結要請を出したところ、即日凍結されました。このまま振り込め詐欺救済法の手続きが進めばお金は回収できますし、口座がロックされている以上、業者に対して裁判を起こして勝訴すれば差し押さえができます。もっとも、この業者の場合は、返金すれば凍結が解除されると思ったのか、結局すぐに80万円を振り込んできましたが。

マルチ商法、クレサラ被害、ヤミ金、リフォーム詐欺、パチンコ攻略法詐欺など、受任事件はあらゆる分野にわたる

ーーですが、普通は犯罪に使われた口座はすぐにお金を引き出されてカラになっているものですよね。

 多くの事例ではそうですね。その意味においては、幸運な事例だったと思います。凍結要請をかけても残高が10円だけということの方が多いですから。その上、裁判を起こそうとしても、訴状が相手に届かなかったりしますし。特定商取引法上の表記住所に実際に行ってみたら、レンタルオフィスや私書箱だったということもありました。

ーーわざわざ現地まで調査に行くんですか。

 事案によりますが、訴訟提起の場合には訴状が届かなければ訴訟が開始しないので、調査に行くこともあるのです。逃げ得・やった者勝ちという社会では大変憤りを感じます。
 現在、省庁において、悪いことをやって得た不当な利益を、海外や地下に逃がさないように早期に凍結して被害者に分配する制度づくりが検討されていると聞いています。違法収益の剥奪という考え方が確立されれば、詐欺ビジネスによる被害拡大を防ぎ、被害救済に道が開かれると思います。

ーーいま、インターネット上で消費者被害を起こしているビジネスでは、詐欺として立件されないように、一見したところは正当な商行為を装っています。”出会えない出会い系サイト”などは象徴的ですが、メールの相手が本物の女性なのか、それとも業者が雇ったサクラなのか、外見上は区別がつきません。また、情報商材においては販売サイトと商品内容に大きなギャップがありますが、それを詐欺と断罪して違法収益の剥奪へつなげることは出来るのでしょうか。

 広告と商品との乖離が激しいのであれば、消費者の誤解を利用してお金を騙し取ろうとしている意図は明らかだという見方もできます。この場合は、業者から届いたメールの文面および販売サイトの文言、そしてその結果購入した商品内容をプリントアウトして金融機関に疎明資料として提出し、凍結要請するのは有効だと思います。

クレジットカード決済を経由した被害への対処

ーーですが、インターネットビジネスにおいては、口座間の現金移動ではなくクレジットカードによる決済が主流だと思います。出会い系サイトや情報商材販売業者は、クレジットカード会社と直接の加盟店契約を結ぶことができませんが、クレジット決済代行業者を介してクレジット課金を行い、被害を拡大させています。これについてはどういった手段で返金を目指すのでしょうか。

 もともとクレジット決済代行業者による課金システム利用が顕著だったのは、出会い系サイト業者や風俗店などではなかったかと思います。それが平成20年の特定商取引法および割賦販売法の改正を契機とした規制強化を受けて、内職商法、競馬・パチンコ攻略法、マルチ商法、情報商材などでクレジット決済代行業者が広く使われるようになったという実感があります。
 こうした問題ビジネスによる被害についてですが、クレジット決済が絡んでいる場合は、必ずしも「犯罪行為である」と判断しかねる場合もあるので、クレジットカード会社に対してはチャージバックを要請し、クレジット決済代行業者に対してはリファウンドを要求するというやり方をします。

ーー具体的にはどういった手順になるのでしょうか。

 先日、出会い系サイトでクレジット決済した90万円の被害を救済できた例で説明しますと、まず、カード会社から送られてきた利用明細書を見て、被害に遭った決済の内容を確認します。ここで日付、金額、海外の決済代行事業者を使っていることが分かりましたので、消費者が契約しているクレジットカード会社(イシュアー)に対して、「これこれこういう事情でおたくのカードフォルダーが出会い系サイト詐欺の被害に遭っているから速やかにチャージバックをしなさい。私は代理人の司法書士です」という内容で、受任通知を送るんです。これと並行して、クレジット決済代行業者の方には「イシュアーに対してすでにチャージバックを請求している。いまのうちに自らリファウンドに応じなさい」という通知を送りました。

ーー両方に並行して通知を出すのはどういった意味ですか?

 チャージバックが多発すると、クレジット決済代行業者が加盟店契約しているクレジットカード会社(アクワイアラ)から、ハイリスク加盟店と見られて契約を打ち切られたり、追加保証金を何千万円も要求されたりすると聞いたことがあります。決済代行業者にとってはクレジット決済が利用できなくなると致命傷ですので、それだけは絶対に避けたい。一方、リファウンドであればクレームがついた売り上げを自らキャンセルして返金するだけなので、傷はつかないと聞いています。
 こういった事情がありますので、チャージバックの要請をした旨を伝えて、リファウンドによる返金を促すというわけです。
 また、出会い系サイト業者の所在を突き止めるのは難しいですが、うまく割り出せた場合は、「イシュアーへチャージバック、決済代行業者にリファウンドをそれぞれ要求している。速やかに返金せよ」という内容で通知を送ります。それぞれの立場を意識して主張していくことにしています。

多様化する決済手段の利便性に潜む罠

日本司法書士連合会では全国に「司法書士総合相談センター」を創設し、身近な法律トラブルの相談にのっている。

ーークレジット決済の絡んだ消費者被害であれば、被害回復へのアプローチはほぼ確立されているというわけですか。

 確立されているかどうかはわかりませんが、このような方法で解決につながっている案件も少なくありません。
 ですが、近年は、クレジット決済代行業者を使わない場合も増えてきたように感じています。いまネットで悪質なビジネスをやっている業者は、電子マネーの方にシフトしている者もあるように感じています。
 ビットキャッシュやスマートピットなどが有名ですが、識別番号が振られたカードにお金をチャージしておき、ネット上の決済で使うというものです。チャージ作業はクレジット決済や口座振込みではなくコンビニに設置してある機械で入金手続きを行っています。そして、出会い系やアダルトサイトなどでの決済時にカードの識別番号を入力すると、チャージの残高が減っていくというわけです。
 つまり、この決済方式は無記名なので、カードを保管していないと被害に遭った日付や支払いの履歴が残りません。にもかかわらず、用が済んだらカードを捨ててしまう方が少なからず存在し、被害額の特定が困難である場合もあります。

ーーそれでは、打つ手はないのでしょうか?

 電子マネーを決済に使うためには、電子マネー発行会社と利用店の間での契約が必要です。しかし、電子マネーの発行会社自体は真っ当なものであり、問題のあるサイト業者が審査をパスして直接の契約を結ぶのは難しいという側面もあります。そこで、クレジット決済代行の仕組みと同じく、出会い系サイト用のポイントを発行する会社が電子マネー発行会社と契約しているというケースもありました。
 こういった仕組みを踏まえて、電子マネー発行会社の責任を問いながらポイント発行会社へ事実等を伝えて返金を目指すことが多いですね。事案にもよるのですが、ポイント発行会社としてもクレームは織り込み済みなのか、争うわけでもなく、返金の手続きが淡々と機械的に進んでいく場合もありました。
 おかしなビジネスをやっていても、ほとんどの被害者は泣き寝入りしますから、数%の人間が文句を言ってくる分には、おとなしく返金に応じたほうが良いという経営判断だと思います。こじれて裁判になって業者に不利な判例を作られるのは避けたいということだと思います。

頼れる司法書士の選び方

ーー悪質業者へプレッシャーをかけるのは、素人では難しい部分もあるかと思います。司法書士に依頼することで、業者の対応が変わることはありますか?

 悪質業者が最も嫌がるのは、悪質業者のビジネスについて豊富な知識を持っている人間です。電話で話をしていても、こちらが詳しいと分かったタイミングで担当者が代わることが多いように思います。実務を通して感じることですが、司法書士だから、という理由で業者の対応が変わることはないし、たとえ弁護士であっても同様でしょう。

ーーとなると、司法書士に依頼する際には、トラブル内容に対する専門知識の有無が重要な基準になると思います。そういった司法書士を見つけるにはどうしたらよいのでしょうか。

 各道都府県ごとに置かれた司法書士会にまずお問い合わせください。相談者のお住まいとトラブル状況を考慮して、適任者をご紹介いたします。

「被害者に泣き寝入りを強いる社会は健全ではない」。そこが山田氏の出発点だ。

ーー司法書士へ依頼した場合、どのような報酬体系になるのでしょうか。少額の被害回復については、弁護士よりもお買い得なイメージがありますが。

それぞれの司法書士によって報酬体系は大きく違うため、一概に言うことは出来ません。日本司法書士会連合会が会員に対して行ったアンケートでも、それは明らかです。
 全般的に弁護士より安いとは想像できますが、簡易裁判所での訴訟代理では弁護士同様に着手金と成功報酬を求められることもあると思います。
 また、弁護士の中にも、社会的な意義を感じた事件には報酬度外視の情熱を注ぐ方がいらっしゃいます。私自身もそうですが、法律に携わる人間は譲れない一線を誰しも持っていて、社会正義と自分の中の正義が、ビジネスよりもしばしば優先されることがあります。
 ずるいことをして儲け続ける人はそのままで、被害者ばかりに泣き寝入りを強いる社会は健全ではありません。
 お困りの際は、お近くの司法書士に是非ご相談頂きたいと思います。

(7月1日 日本司法書士連合会にて)

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