1950年生まれ、愛媛県出身。大阪府立大学経済学部卒業後、伊藤忠商事㈱に入社する。海外勤務やグループのアパレル事業会社社長などを経た後、2005年5月に(株)ムトウ(現スクロール)入社。取締役通販事業部長兼生協事業部長などを務める。2007年4月、ムトウの社長に就任。現在、グループの(株)スクロール360会長や、(株)イノベート会長も兼務している。
渡辺友絵(通販研究所代表)
元「週刊通販新聞」「月刊ネット販売」の編集長。独立後、通販業界の取材・執筆や各種セミナー講師、企画・コーディネート業務などに携わる。著書に「通販業界の動向とカラクリがよ〜くわかる本」、共著に「通販エキスパート検定テキスト」。
ファッションEC企業としても躍進を図る堀田社長。
――70年以上使ってきた「ムトウ」という社名を、ネット時代に向け「スクロール」に変更した。思い切ったイメージチェンジだったため通販業界でも注目を浴びたが、社名変更の背景や経緯をうかがいたい。
「私が社長に就任した2007年は、前の期に当期赤字を出すなど利益面での落ち込みが目立った。就任後すぐに中期経営計画を策定し、基本テーマに“破壊と創造”を掲げた取り組みを開始。2010年度を成長戦略構築へのスタートの年と位置付け、実現に向けて古い社名を捨て去り、新たな時代にふさわしい社名へ転換を図ろうと思った。従来のカタログ依存型ビジネスモデルを根底から見直し、インターネットに活路を見出すという会社を挙げての大改革へと一歩を踏み出すことにした。ちょうど自社についてブランドの調査を行っていた時で、若手社員から『時代はネット主軸に変わりつつあるのに、いつまでもムトウという社名・ブランドでいいのか』いう声が上がった。年長の社員からは『ムトウのままで』という意見もあったが、会社の将来を担っていく若い社員の思いは大事にしたいという考えもあり、約20挙がった候補の中から最終的にほぼ満場一致で『スクロール』が選ばれた」
――御社は生協の顧客なども多いが、歴史と馴染みがある社名の変更について、顧客がとまどうとは思わなかったか。
「そのため、社名変更の1カ月前から、社名・ブランド告知のキャンペーンをスタート。静岡県を中心としたテレビCMをはじめ、ラジオ番組の提供や車両広告などを展開した。同時にプロバスケットボールbjリーグの『浜松・東三河フェニックス』のオフィシャルスポンサーになり、社名・ブランドの認知度を高めていった。ただ、なんといっても『スクロール』という社名を最も自然に受け入れたのは社員だった。実はすんなり浸透するかどうか危惧していたのだが、若い社員を中心に社内の雰囲気が変化。オフィスをコーポレートカラーの赤に合わせてリニューアルしたり、チャイムもCMの曲に変えるなど環境もリフレッシュしたことで、社内に活気がみなぎった」
SPA企業のスピード力を重視 カタログのビジネスモデルを根幹から見直し
「scroll」の文字が入ったユニフォームでチームを昨シーズン王者へと導いたキャプテンの岡田慎吾選手。写真提供:浜松・東三河フェニックス
――社名変更に伴い、カタログ通販のビジネスモデルも見直しを図った。
「ネット時代に重要なのはスピードなのにもかかわらず、カタログの商品は企画から販売まで8カ月もかかる。そこで、まずはこのマイナス慣習を改革しようとした。アパレルやファッションではユニクロやH&MといったSPA(製造小売り)企業が成長し、これからは通販企業ではなくこういったSPA企業が競合相手になると考えたからだ。彼らには価格力だけでなく通販にはないスピード力があり、対抗していくにはこちらもビジネスモデルを根幹から見直さねばならないと思った。そこで、2010年夏からは、従来の半分の4カ月間でカタログを発行できる体制を整えた。売れ筋の追加や在庫処分についてもスピードを優先し、カタログ発行後2週間の立ち上がり状況で判断。売れ筋商品は素早く発注をかけ、死に筋はセールチラシやネットで早めに処分し、シーズン終了時には在庫ゼロを目指すようにした」
――カタログのビジネスモデル見直しをきっかけに、ネットではどのような取り組みを行ったのか。
「ネットの強化を狙って抜本的に仕組みを見直し、商品の企画や発注時から“ネット専用販売”に合わせる取り組みに着手した。それまではあくまでもカタログ中心の考え方で、『カタログの在庫をネットで売ろうか』という発想がネット担当者の頭に染みついていた。この発想を180度転換させ、カタログの商品企画をスタートする時にネット担当者も初めから参加。あらかじめネットで売る商品や数量を決め、責任を持って販売する責務を負わせた。従来のような“ネットはカタログのサポート媒体”という意識を払しょくさせ、ネットへの移行に加速度を付けるための意識を高めていくことが狙いだった。カタログとネットはある意味、全く別なビジネスともいえる。単なる社名変更ではなく、カタログ・ネットという媒体に対する姿勢や意識が変わることこそ重要だとの考えが根底にあった」
F1層顧客が中心 ネット受注比率は75%と総合通販企業でトップ
コスメブランド『RAPRiER』、35万足を売り切った靴専門サイト『kutuya』など、矢継ぎ早の展開を見せる。
――通販業界でインターネット受注は年々拡大しているが、御社のネット受注比率は総合通販企業の中ではトップに位置する。
「2〜3年前からネット販売を強化してきたが、実績と評価が伴ってきたようだ。当社の通販には個人通販と生協通販があり、個人通販ではファッションや雑貨、家具など5冊の通販カタログを顧客に送付。970万人の登録顧客、100万人のアクティブ会員がいる。20〜30代のF1層が中心のためネットと親和性が高く、2007年には50%だったネット受注比率が2010年12月には75%にまで伸びた。ネット受注ルートについては、カタログの商品番号を入力する『カタログ併用型』とネットからダイレクトに申し込む『純ネット型』の顧客がいる。最近はECマーケットからの評価も高まり、2009年度の楽天市場『ショップ・オブ・ザ・イヤー』では、『百貨店・総合通販・ギフトジャンル』部門のジャンル大賞を獲得している。ただ、ネット比率が上がることはいいが、通販全体の売上高が縮小する中で、カタログの不振をネットがカバーしているとも言える。カタログはかかるコストが大きいが、顧客のロイヤリティーが高い。一方でネットはカタログに比べてコストは押さえられるものの、競合も多く顧客を固定化することが難しい。それぞれメリットとデメリットがあるこの2つの媒体をうまく融合させていくことこそ、成功へのカギではないか」
――そのほかにも、さまざまなネット施策を打ち出している。
「商品の見せ方にも工夫を凝らし、2009年11月には動画を使った商品紹介サービスに着手。同時期にはグルメ専門検索サイトも立ち上げた。さらに2010年4月からは、5000円未満の商品を中心にラインナップした靴専門の新サイトもオープンさせるなど、専門性の高いサイトを積極的に展開している」
消費低迷の中、2011年3月期の連結業績予想では前期比7.8%増の売上高600億円を目論み、攻めの姿勢を崩さない。
――今後のネット通販の取り組みについてはどうか。
「『スクロール』という社名が示す通り、これからはネット起点のビジネスモデルに大きく舵を切る。カタログでも『SPA通販』のビジネスモデルを構築しつつあるが、ネットでも同業他社ではなくF1層に人気がある実店舗をにらんだ戦略に注力する。ネット向けに開発した商品や専門サイトを増やし、例えば既存のラージサイズ専用サイトなどのように、ある程度特化した顧客ニーズに応えていく。今後の小売市場は縮小していくと捉えており、その中で顧客満足を獲得しつつ勝ち組になる手法としてM&Aも推進したい。F1層という年代や通販にマッチする層に向けて通販を手がけている企業や、ネット事業をさらに広げていくためにEC企業なども候補として考えている。今後は、カタログ通販で培った経験やノウハウをもとに、無限の可能性を持つネットへの取り組みをこれまで以上に強化。顧客が満足・ワクワクするような商品やサービスなどを提供していきたい」
――座右の銘があったら教えていただきたい。
「『No Guts、 No Glory!(ガッツなき者に栄光はない!)』」だ。
【社名】(株)スクロール | |
【オフィシャルURL】http://www.scroll.jp/ | |
【業務内容】通販アパレル・インナー事業、生協向け通販事業、通販ソリューション事業 | |
【企業沿革】 | 1939年 浜松市で武藤洋裁所として創業 1951年 武藤商事(株)を吸収合併し武藤衣料(株)に社名変更 1967年 ムトウ衣料(株)に社名変更 衣料品カタログ「ムトウ総合カタログ」を発行 1970年 (株)ムトウに社名変更 1971年 日本生協共同組合との取引を開始 1984年 東京証券取引所市場第二部上場 1986年 東京証券取引所市場第一部上場 1987年 個人通販用ファッションカタログ「ラプティ」創刊 1993年 個人通販用雑貨カタログ「生活雑貨」創刊 1996年 インターネット通販を開始 2001年 モバイル通販を開始 2009年 (株)スクロールに社名変更 |
【業績】2010年3月期売上高556億円(連結) *Eコマース売上高は約75% | |
【直近トピック】 ・1990円の「イチキューパンプス」が累計販売数30万点を突破 ・靴専門の新サイト「kutuya」をオープン ・(株)イノベートの株式を取得 ・オリジナルの通販コスメを発売 ・社会貢献活動「第6回大草山森づくりプロジェクト」を実施 ・ネット受注比率が75%に拡大 |