24時間生放送で年間1,000億円超を稼ぐテレビ通販最大手が狙う次の一手は、“面の拡大”。ジュピターショップチャンネルが描くWebへの取り組み

2014年12月13日
ジュピターショップチャンネル株式会社 篠原淳史社長

1959年生まれ、愛媛県出身。一橋大学法学部卒業後、81年に住友商事(株)に入社。事業投資や小売関連事業に携わり、欧州住友商事(ロンドン)に勤務。住商オットー(株)を経て04年に住友商事のダイレクトマーケティング部長、07年にライフスタイル・リテイル事業本部ファッション・ブランド事業部長。07年からジュピターショップチャンネル(株)代表取締役社長。

CS放送やケーブルテレビを通じ「ショップチャンネル」の名称でテレビショッピングを手がけるジュピターショップチャンネル(株)は、今秋で開局14年を迎えた。売上高は1,000億円を超え、テレビ単独では通販業界でトップの座を維持する。篠原社長が目指すのは、テレビを軸にWebやカタログ、イベントなどを連動させた“面の拡大”。「24時間生放送」で展開するテレビに偏らず、各媒体で顧客連動を図り相乗効果を上げていく。
インタビュー・取材・構成
渡辺友絵(通販研究所代表)
元「週刊通販新聞」「月刊ネット販売」の編集長。独立後、通販業界の取材・執筆や各種セミナー講師、企画・コーディネート業務などに携わる。著書に「通販業界の動向とカラクリがよ〜くわかる本」、共著に「通販エキスパート検定テキスト」。


住友商事時代は同社の小売・直販部門を切り盛りしていた篠原氏。そのノウハウはジュピター顧客へダイレクトに届く。

――テレビショッピングの売上高では長らく通販業界のトップを走っている。2010年3月期の売上高は対前年比2.5%増の1,090億円と好調だったが、この不況下で伸びている要因は何か。
「当社は自前スタジオを使い24時間生放送でテレビショッピングを実施しており、毎週700商品を扱っている。商品ジャンルはアパレル、ファッション雑貨、ジュエリー、化粧品、食品、家電、家庭雑貨など多岐にわたるが、どのジャンルもそれぞれ好調だった。昨年11月に放映した開局13年特別番組では、1日当たり11億円という過去最高の売上高を記録した。また、顧客層は女性が90%を占め40〜50代が中心だが、当期はより若い顧客層の開拓に向け、深夜帯の活性化を狙った複数の新番組を放映。30代やアラフォー世代の顧客獲得につながった。
楽天やファッションウォーカーをはじめさまざまな顧客層を持つ企業とのコラボレーションも積極的に展開し、顧客層に厚みができたことも大きい。当期は以前にも増してこういった番組企画を強化したが、それは今期も続いている。不況だからこそ、逆にチャンスもあると考えている」
――楽天やファッションウォーカーなどネット企業とのコラボで最も大きなメリットは。
「楽天とのコラボでは2009年に放映したグルメの特別番組が好評だったため、2010年にレギュラー化した。毎週定時に他社とのコラボ番組を放映するのは初めての試みだったが、幅広い層に知名度が高い楽天と相互プロモーションを行うことで、当社の認知度アップおよび販促効果の最大化を目指した。楽天は会員にメルマガを送ったりWebでキャンペーンを実施。当社は番組や視聴者向け番組ガイド、さらに番組連動型ECサイト『ネットでSHOP』を通じたプロモーションを行った。ファッションウォーカーの場合はF1層という新たな顧客層を開拓すること、さらにその日のお買い得商品を紹介する深夜12時枠の人気番組『ショップ・スター・バリュー』が終わった後の時間帯を、若年視聴者によって活性化させることを狙った。結果的には若年層の開拓だけでなく、こういった企画やテイストが好きな当社の既存客にも新鮮に映ったようで評価をいただいた」

スタジオとサブコントロールルームでは約10人の制作スタッフが24時間生番組を支える

――番組連動型のECサイト「ネットでSHOP」についてうかがいたい。
「『ショップチャンネル』で放映している番組と連動しており、リアルタイムで番組が視聴できる。『ネットでSHOP』を見ながらそのままWeb経由で商品を買えるだけでなく、商品のショットを拡大してチェックすることも可能だ。その日に放映したばかりの商品も掲示されていて、さかのぼって購入できる。さらに、サイト上の番組表を見たうえで、放映日時や番組名から過去に販売した商品を検索し購入することもできるほか、こういった過去の番組を視聴することもできる。また、番組で放映する前に『ネットでSHOP』で一部商品を先行販売するなどの優位性も打ち出している」
――「ネットでSHOP」以外にデザイナーズコレクションのサイトも運営している。
「2009年秋に、ラグジュアリーブランドを集めた『ミラベラ』を立ち上げた。MARC JACOBS等の人気ブランドを紹介しているが、ブランド数も増えていて現在約200ブランドが参加してくれている。もちろん、テレビでも『ミラベラ』商品を紹介している」


クロスメディア施策  商品注文時やアップセルでテレビからWebへと誘導

――そのほかテレビとWebの連動ではどういった取り組みをしているのか。

コールセンターの電話はひっきりなしに鳴り響き、人気商品が次々に完売していく

「ひとつは商品受注面の施策だが、とにかく生番組なので人気商品を紹介した時などは一斉に注文の電話が鳴る。自前のコールセンターで万全の態勢を整えており、電話がつながりにくくなった時には自動応答システムでも対応するが、間に合わずソールドアウト(売り切れ)になってしまうケースもある。そのような場合、テレビ画面のフロップに出ているURLにアクセスし注文してもらえば受注態勢も緩和し、お客さまにも欲しい商品を購入していただける。
もちろんWebからの注文もリアルタイムでカウントしているため、番組の画面では商品残数などリアルタイムで動く販売状況を見ることができる。さらにモバイルにもサイトを設けており、モバイル経由の注文も常時受けている。深夜の12時過ぎになると、テレビを見ながらモバイルで注文するケースがぐっと増える。

主力の服飾アイテムのほか、コスメやフードなどにもネット限定商品を設定し、自社サイトへの顧客誘導を狙う

もうひとつはテレビ、カタログ、Webを連動させた、いわばクロスメディア展開だ。当社は商品を送る際に冊子型の翌月の番組ガイドを同梱しているが、ロングセラー商品や人気商品を掲載した通販カタログも作成し一緒に送っている。
このカタログでは番組では扱わない『カタログ専用商品』も掲載しており、テレビでは『番組では販売していないが』と前置きしたうえでカタログ専用商品の紹介も行う。ただ、それ以前に何らかの商品を購入してくれた人でないとカタログを持っていないこともあり、ここでWebカタログに誘導することがポイントだ。また、たとえカタログを持っていてもすぐ手元になければWebカタログで確認する方が早いわけで、Webへの誘導施策として、また商品のアップセル施策として力を入れている。このようにテレビ、カタログ、Webと自社が持つ媒体をクロスさせながら最大効果を生み出していくことを狙っている」
――現在、一日のページビューやWebによる売上高はどのくらいあるのか。
「デイリーのページビューは約350万件で、Web経由の売上高については正式には公表していないが、全体のおよそ2割強程度といえる。ただ、ほとんどはテレビを見たうえでの注文手段としての機能だ。Web限定商品も販売しているものの、本来のWeb売上高という面からいえばまだまだ規模は小さい。今後テレビの視聴環境が変化していく中で、受注手段ではない純粋なWeb売上高を伸ばしていくことが重要な課題といえよう」


地上デジタル化で変わる視聴環境 チャンネルを合わせてもらえる番組企画を強化

――「視聴環境の変化」というのは、これまでは首都圏の場合民放5局が入っていない「空きチャンネル」でケーブルテレビ経由の「ショップチャンネル」を見ることができたが、地上デジタル化でそれが難しくなり、チャンネル数も増えることで消費者が「ショップチャンネル」を視聴する機会が減る--ということか。

実店舗とのコラボ企画を次々打ち出し、地デジ時代の番組展開に自信を見せる篠原氏

「確かに地上デジタル化による影響は大きい。現在もケーブルテレビやCS放送だけでなくBS放送のスポット枠を利用して9時間程度番組を流しているが、これからは『24時間やっているからなんとなく見ている』というのではなく、意思をもって『ショップチャンネル』にチャンネルを合わせてもらうような番組を制作していかなくてはならない。冒頭に話した番組企画の強化は、こういった背景を踏まえたものでもある」
――そのほか今後注力していきたいことは。
「番組企画ではネット企業をはじめ他社とのコラボを積極的に進めてきたが、複数の百貨店と組むなどリアル店舗を持つ企業との連携も強化している。コラボ先である百貨店の商品を番組で扱うだけでなく、百貨店の店頭モニターで『ショップチャンネル』の番組を流すなどさまざまな取り組みを実施した。また、民放系地方局との提携による現地からの生中継番組も実現した。今後はこういった施策をどんどん進めたいし、全国ケーブルテレビ局と連携して地域密着型番組やイベントといった企画も強化する。ともかく、テレビという既存の媒体やルートだけに依存するのではなく、他社と連携したり自社が持つリソ-ス、ノウハウ、コンテンツを最大活用しながら、“面の拡大”を実現させていくことが重要だと思う」
――最後に座右の銘をうかがいたい。
「仕事だけでなく、生き方の基本姿勢として『誠心誠意』を目指している」

取材対象企業データ
【社名】ジュピターショップチャンネル(株)
【オフィシャルURL】http://www.shopch.jp
【業務内容】ケーブルテレビ放送、衛星放送、インターネット、カタログ等を通じた通信販売事業
【企業沿革】 1996年 ジュピターショップチャンネル(株)を設立しパーフェクTV!
     (現スカイパーフェクTV!)で放送開始
1997年 24時間放送開始、週18時間の生放送開始
1999年 独自のホームページを開設、自社スタジオ機能を備えた新オフィスビルに移転
2001年 国内初の24時間生放送(1日)を実施
2003年 ネットショッピングサイト「ネットでSHOP」開始
2004年 完全24時間生放送開始、携帯サイトで全商品が購入可能に
2006年 新コールセンター稼働開始
2007年 物流センター本格稼働、売上高が1,000億円突破
2008年 品質マネジメント「ISO10002」を取得
2009年 都内有楽町に直営店をオープン
【業績】2010年3月期売上高1,090億円 *Eコマース売上高は約2割強
【直近トピック】
・11月1日〜5日に開局14周年記念の特別キャンペーン番組を放映
・「ランセル」ブランド初登場で六本木ヒルズから生中継
・東急百貨店東横店にて「大ショップチャンネル祭」を開催
・途上国の学校建設を目指す支援プロジェクト番組を放映
・「テレビ×店舗」のメディアミックス販促で大丸百貨店東京店から生中継
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