最も古く、最も新しい通信教育ビジネスを、模索し続けて56年。 ユーキャンが打ち出すWeb時代のクロスメディア戦略

2014年7月27日
株式会社ユーキャン 品川惠保会長

1948年生まれ、東京都出身。立教大学卒業後、71年に日本通信教育連盟(現ユーキャン)に入社。80年から同社の代表取締役。95年から(社)日本通信販売協会副会長、04年から06年まで同会長。グループの(財)国際文化カレッジ理事長として、文部科学省管轄の団体、(社)社会通信教育協会の顧問も務める。

通信教育や出版など教育・文化に関わる商材を長く手がけてきた同社は、2002年に「生涯学習のユーキャン」というブランドを立ち上げた。中高年中心だった顧客ターゲットを、20~30代の若年層へとシフトさせ、話題性・ストーリー性を盛り込んだテレビCMキャンペーンやWebムービーを展開している。通信の主役がインターネットに移行しつつあるいま、通信教育最大手企業もまた、そのあり方を大きく変えようとしている。
インタビュー・取材・構成
渡辺友絵(通販研究所代表)
元「週刊通販新聞」「月刊ネット販売」の編集長。独立後、通販業界の取材・執筆や各種セミナー講師、企画・コーディネート業務などに携わる。著書に「通販業界の動向とカラクリがよ~くわかる本」。


インターネット時代の通信教育ビジネスを情熱的に語る眼光はひたすら鋭い。

――今年も元旦から「ユーキャンブランドキャンペーン」のテレビCMが始まった。
「現在当社の事業を支えているF1層(20~34歳の女性)やM1層(同男性)を主なターゲットとしている。だいたい3年目にはイメージキャラクターを一新するが、今年も新たに5人のタレントさんを起用。新たな一歩を“踏み出す”ドラマ形式に仕立て、“フミダス”をスローガンにそれぞれ1本ずつ演じてもらっている。ドラマの完全版は自社のホームページでWebムービーとして公開し、Webムービーを編集したダイジェスト版をメインにテレビCMを放映した。
さらにテレビとWebを軸とし、新聞、雑誌、屋外広告も含めた広がりのあるコミュニケーション展開を進めている。2月~3月にはある程度この集中キャンペーンの結果が出るため、社内外スタッフでキャンペーン結果を分析した反省会を行い、翌年の企画に着手し始める」
――毎年必ず年初に始まるこのブランドキャンペーンなどを通じ、「ユーキャンブランド」がすっかり定着した。
 「創業から56年経つが、当社は書道やペン習字、囲碁などの趣味系講座が軸となり、中高年層を中心顧客として成長してきた。ところが時代の変化とともに10年ほど前から若年層向け資格講座の人気が次第に高まり、従来使っていた『○○連盟』や『○○協会』など専門的な事業者名は時代にそぐわなくなってきた。そこで顧客軸を若年層にシフトさせることを視野に、ブランディング戦略として『ユーキャン』ブランドを立ち上げ、社名も変えた。ブランドとして統一感が出たため、以前と比べて広告費の費用対効果も上がった。
たとえ創業して56年、累計受講生2000万人という実績があっても、今の時代ではそれはセールスポイントにならない。事業を進めていくには、やはり革新的、斬新的な取り組みが不可欠ということに尽きる。ただ、『流行語大賞』のスポンサーなどを通じてブランドの知名度はかなりアップしたことから、これからは商品力をより強化するためにコストを投入していきたいと思っている」
 ――資格系講座の受講生数はかなり増えているか。
 「昨年1年間で見ると、新規受講生は資格系が約40万人、趣味系が約20万人となった。10年前は趣味系が多かったが、逆転した。もともと趣味系は中高年が中心だったが、最近これらの層は受講申し込みにとても慎重になっている。資格系講座は20~30代といった若年層の受講生が中心なので、当然ながらインターネットへの対応も不可欠になってきた」

若年層の資格取得を強力バックアップ Web学習支援システムの導入が進む

 ――資格系講座はどのようにWebを活用しているか。
 「従来からメインの販促媒体は新聞・雑誌広告や折り込みチラシ、ダイレクトメールといった紙媒体だったが、軸足を若年層にシフトしたため、ここ数年は通教講座のWeb施策に力を入れた。さらに紙媒体やテレビCMを連動させたクロスメディア手法を積極的に活用している。資格系講座はインターネット経由で受講申し込みや問い合せをして来る人が目立つが、これらの人は過去に当社とは接点がなかった新規客ということが特徴。中でも増加傾向にある若年層は、テレビCMを見てサイトにアクセスしてくるケースが多いという。こういった点を踏まえサイト構築においては、訪問してきた人がひと目でユーキャンのサイトだと分かるようなビジュアルを重視している。トップページではテレビCMのイメージキャラクターのタレントさんを全面に打ち出し、CMのテーマ音楽や動画を流すなどの工夫をしている」

資格講座の申し込みはWeb経由が半分を占める。

 ――学習指導サイト「学びオンライン」やコミュニティサイト「学びーズ」など、受講生のサポートにもWebを活用し始めている。
「ここ数年はそういったWeb上の取り組みに力を入れているが、さらに今年は新しいWeb学習支援システムの開発を手がける。昨年秋から企画をスタートさせ、今年早々にプロジェクトチームを立ち上げた。受講生に対しワン・トゥ・ワンの学習サポートを目標にしたサービスで、受講生別に弱点を分析。課題提出などからの脱落防止や資格試験合格を目指すため、パーソナル添削システム導入していく。Web添削やWebドリルを活用し、モバイルでも使えるようにするつもりだ。資格講座は50%がWeb経由の申し込みという結果からも、定着しやすいだろう。いろいろとやりたいことがあるが、とりあえず来年には現在描いているコンテンツの半分を実現させたい」

趣味娯楽コンテンツへの根強いニーズ 100万部突破目前の地図商材も

 ――通信教育講座以外に出版音楽部門があり、ビデオやDVD、CD、書籍など幅広い商材を通販している。
「趣味系講座と同様にやはりこちらの事業も中高年顧客が多く、勢いが落ちてきた。ただ中には『日本大地図』のように、累計で94万部を突破し2月頃には100万部に達する見込みの人気商品もある。しかし、どのような人気商品であっても、勢いがずっと続くとは考えていない。今年は太宰治の『斜陽』や樋口一葉の『たけくらべ』といった日本文学の名作を、女優の市原悦子さんなど一流の語り手が朗読するCD集『聞いて楽しむ日本の名作』という新商品に力を入れる。今後作品を増やしたり人気の高い語り手に朗読してもらうなど面の拡大が可能なため、若い層もアピールしていかれると思う」

通信教育にとどまらず、総合コンテンツ企業としての成長戦略を語る品川会長。

――長引きそうな不況やデフレへの戦略ポイントは。
「当社の扱う商品は出版・音源系も資格系通教講座も価格帯は3~4万円が中心で、現在の社会状況の中ではどうしても高額に感じられてしまう。慎重になっている昨今の消費者に受け入れてもらうのはなかなか難しい。従って今年はまず書籍やDVDの中から分割払いしやすそうな商品をいくつか選び、2~3回程度に分けて支払うことができるような売り方を試す。
通教講座の場合でいえば、やはり当社が書店ルートで販売している資格取得向けの独学書や囲碁の書籍などが堅調に売れている。ブランドの定着が奏功していると思うが、これら伸びている講座を成功事例として捉え、さらに独学書籍の商品群を広げていきたい」
――今後の市場予測や対応策をうかがいたい。
「これだけモノが売れない社会状況下では、どの企業も売り上げは現状維持が精いっぱいだろう。インターネットは確かに勢いがあるアプローチツールだが、中高年層などには届きにくい面もあることから、当社の場合はテレビや紙といった他の媒体もクロスさせていくことが重要といえる。クロスメディアを進めていくとどうしても利益率は低くなるため、今後はコストの掛け方を十分に精査していく必要がありそうだ」
――最後に座右の銘があれば教えてほしい。
「中国の『荘子』に、故事に由来する“木鶏”という言葉が出てくる。社内の会議室にも台湾の書家に書いてもらった書を飾っているが、まるで木彫の鶏のように、何事にも全く動じない闘鶏における最強の状態を指す言葉だ。自分もこのような“木鶏でありたい”と常々思っている」

取材対象企業データ
【社名】(株)ユーキャン
【オフィシャルURL】http://www.u-can.co.jp/
【業務内容】通信教育事業(資格系・趣味系講座など)出版・通信販売事業(書籍、ビデオ、CD、DVDなど)
【企業沿革】 1954年 「東京人形学院」を設立し創業
1955年 通信教育部を新設
1974年 関係法人を一本化し「(株)日本通信教育連盟」に改称
1978年 資格系講座をスタート
1993年 生涯学習局を開設、教養系講座をスタート
2002年 「生涯学習のユーキャン」ブランドがスタート
2006年 「(株)ユーキャン」に社名を変更
【業績】売上高489億円(2008年12月期連結)*Eコマース売上高は非公開
【直近トピック】
 *2010年元旦からテレビCMなどで「フミダス」をスローガンにした新ブランドキャンペーンを開始
 *学びのコミュニティサイト「学びーズ」をパソコンとモバイルのサイトで運営
 *受講生をサポートする新システムの構築に着手
 *資格系通教講座の受講申し込みでWeb経由がほぼ半数になる
 *出版事業でロングセラーの「日本大地図」が累計販売数94万部に
 *新商品のCD全集「聞いて楽しむ日本の名作」を発売
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